容疑者の心開く「とっつあん」 福岡県警の元警部補、定年後も慕われ

西日本新聞 社会面 中島 邦之

更生願って手紙やりとり

 殺人や窃盗事件で取り調べた人たちから「とっつあん」と慕われる元刑事がいる。福岡県警の元警部補(71)は容疑者と向き合い、心を開かせることで容疑を認める供述を引き出してきた。「罪を悔い、反省することが再犯を防ぎ、被害者への償いにつながる」。受刑者や元受刑者と手紙のやりとりを通して、更生を願い続ける。

 元警部補は取り調べを担当した人たちから届いた手紙を大切に保管している。

 ≪(動機について)「何でか」と何度も聞きましたね。あのとき私は死のうと思い、人生を投げ出す覚悟でした≫≪出所したら必ず会いたい。再び罪を犯すことはないと思うが、弱い人間なので、おとっつあんに力になって欲しい≫

 重大事件を起こして服役していた女性から7年前と4年前に届いた手紙。女性は最近出所し、引っ越しを手伝ってやった。

 この女性は取材に対し「当時は親からも見放されて孤独だった。取調室で『自分を否定せんでいい』と話を聞いてくれ、救われた気がした」と話した。迷惑を掛けた人たちへの償いを胸に福祉施設で働いているという。

 ≪22日間否認したのに何でニコニコしているのかと思った。心を開かせてくれたのは、とっつあん。話が出来るのはこの人しかいないと思い、余罪まで話すことが出来た。社会復帰後は真面目に働きます≫

 窃盗を繰り返して服役中の元暴力団組員が10年前に送ってきた手紙だった。数年前、出所のあいさつに訪れ、今は工事関係の仕事をしていると聞いている。

    ◇    ◇ 

 特に印象に残るのが、複数人を殺害したなどとして刑が確定した死刑囚だ。

 「おまえが俺を死刑にするったい」。取調室に入るなり、悪態をつき、事件の話には応じようとしなかった。ボールペンの先で額を突かれたこともあった。

 それでも真相を解明し、被害者や遺族の無念を晴らしたい一心で対峙(たいじ)した。不平不満にもじっと耳を傾けた。「事件は許されることではないが、あいつにも気の毒な生い立ちがあった」

 取り調べを始めて約1週間。容疑を認める供述を始めた。「判然としなかった事件の全容が見えてきた」。自供に転じた理由は不明だが、警察署から拘置所へ移送する際に渡された手紙にはこう書かれていた。

 ≪今日までの約3カ月、マジありがとう。俺の我ママを聞き入れ最後まで付き合ってくれた。『俺はおまえば信じとるけん』の一言がマジ嬉しかったばい≫

 昨年10月までに数十通の手紙が届いた。

    ◇    ◇ 

 42年間の警察官人生では刑事畑を歩み、定年して約10年。この間、捜査手法は大きく変わっていった。

 最高検は2007年、真犯人が自白し、服役を終えた男性が再審無罪となった「氷見事件」(富山県)を受け、「自白偏重捜査を改める」との報告書を公表。警察庁は翌08年、取り調べの適正化策として、飲食物の提供や不安を抱かせる言動などを禁じる通達を出した。

 捜査現場では自白を強要せず、DNA型鑑定や防犯カメラ映像などの客観証拠を重視するようになった。

 こうした流れに「異存はない」。ただ、こうも信じている。「動機が分からないままでは事件を検証することもできない。心を開かせるのが取調官の仕事やと思う」

(中島邦之)

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