「人を救う」を追いかけて

西日本新聞 永田 健

 スイスのジュネーブで働く國井修さん(57)がこの10月、日本に来ていると聞き、空港で会った。國井さんは国際医療援助のスペシャリストである。

 私が國井さんに取材するのは4度目だ。最初は16年前、外務省の課長補佐だった時。國井さんはもともと医師だが、非政府組織(NGO)などでの活動の知見を請われ、一時的に外務省で仕事をしていた。次の取材時、國井さんは長崎大熱帯医学研究所教授。3度目は国連児童基金(ユニセフ)幹部としてソマリア入りしていた頃だった。

 そして今回、その肩書は世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド=GF)戦略・投資・効果局長。GFは世界主要国政府やマイクロソフト創業者ビル・ゲイツ氏の財団などが出資する国際機関だ。会うたびに活動が「世界規模」になっている。

   ◇    ◇

 エイズ、結核、マラリアの三大感染症は、世界で毎年約250万人の生命を奪っている。国連は「三大感染症の2030年までの流行終息」を目標に掲げる。NGOや当事者団体との連携が強く、資金豊富なGFへの期待は大きい。

 國井さんに、GFでの活動内容や苦労を聞いた。

 -肩書に「投資」と入ってますが、投資とは?

 「普通の経済活動で言う投資とは違います。GFが政府や民間の資金提供に基づいている以上、費用対効果を最大化させる必要があります。資金を『投資』と位置づけ、どこにどれだけ資金をつぎ込めば最良の効果を生むか、それを考えるのが仕事です」

 -国際医療支援は時に危険で、きれい事ではすまない面もあります。現地の政府がちゃんとした対策をしないこともあるのでは?

 「そうです。例えばセックスワーカー(性産業従事者)、同性愛者、難民の医療などは、放っておくと政府はやろうとしない。逆に迫害することさえある。そんなときは、お金の力にものをいわせます」

 -お金の力に?

 「賄賂ではないですよ。政府がこの事業をやってくれるのなら、GFがさらに資金を出しますよ、とちらつかせて、人権に関わる政策へと誘導するのです。支援には効果、効率だけでなく『公正』も大事。声の届かない人たちを救うために何をするか、を常に考えなければなりません」

 人類と三大感染症との闘い。その最前線で戦略を練るのが國井さんだ。

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 ここまで読んできた読者は、國井さんとは何と優秀で真面目で、パワフルな人かと思うだろう。実際その通りなのだが、それだけでは人物像が伝わらない。

 この人は何というか、社会的に重要な立場にある人物が発する「威圧感」や「偉そう感」が全くないのだ。私の長い取材経験上も、こういう人は珍しい。

 米国の作家の言葉-「天才とは、蝶(ちょう)を追いかけているうちに山の頂上まで登ってしまう少年のことだ」。國井さんは天才とはちょっと違うだろうが、医師として「人を救う」ことを追いかけているうち、大きな山の高い所まで来ていた。そんな感じではないか。

 さしずめ私は、その5合目とか、7合目とかで取材している格好だ。今度会うとき、國井さんはどのあたりにいるのだろう。

 (特別論説委員)

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