【より大きな自由を求めて】 松田 美幸さん

西日本新聞 オピニオン面

◆尊厳を尊重する社会に

 師走の夜。福岡市内で乗ったタクシーの運転手さんがこぼした言葉に胸が詰まった。「私たち、人間なんですけどね」。安全で快適な移動を提供してくれる人たちが、働く場で人間としての尊厳が尊重されていないという矛盾。

 運輸業、宅配業、流通業、観光業―。24時間365日のサービス提供を期待されている業界の労働環境に、危険信号が点滅している。幼児教育・保育の無償化を契機に増加したニーズは、現場で働く人たちの疲弊に追い打ちをかけているという報道も相次ぐ。

 国連サミットで持続可能な開発目標(SDGs)が採択されて4年経過した今年、経済産業省がSDGs経営ガイドを発行、九州経済産業局も事例集を作成と、企業への働きかけが本格化している。

 一方、企業の対応は、市場での競争優位性や投資家へのアピール材料とされる傾向が強く、重要な「従業員への視点」が弱い。SDGs17目標の8番目に記された「働きがい」のある人間らしい仕事という側面に、光が当たっていないのだ。「同一労働同一賃金」の達成も指標のひとつだが、実現は相当困難だ。

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 先週、世界経済フォーラム(WEF)が発表した「男女格差報告」では、日本は、調査対象153カ国のうち121位で、過去最低となった。女性の政治参画や管理職割合が向上しないという現状を説明しても問題は解決しない。

 報告によると、日本の女性の賃金は男性の賃金に比べ24・5%少ない。ランキング1位のアイスランドでも11・5%、3位のフィンランドは17・7%低い。日本の女性パートタイム就労者の比率は、男性に比べ3・19倍も高い。

 こうした格差が世界的な産業構造変化や技術進歩の影響を受けている実情に目を向けることが重要だ。

 報告は「女性は三重苦」と指摘する。第一に自動化で打撃を受ける職種への就業比率が高い。第二は成長分野で賃金上昇幅が大きい職種に就く女性が少ない。第三には女性の就労に必要な育児・看護・介護の制度整備の欠如や起業に必要な資金調達への制約を挙げている。

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 SDGs前文の2行目に「より大きな自由」という言葉が盛り込まれている。2005年に、当時の国連事務総長が発表した「より大きな自由を求めて―すべての人のための開発、安全保障および人権」という報告書に由来する。「より大きな自由」とは、欠乏からの自由、恐怖からの自由、尊厳をもって生きる自由。すべての人々に安全と開発を手にする権利があることを意味する。

 日本にも、こうした自由が保障されず、制約を受けている人が多数存在する。人間としての尊厳を尊重されない職場で働く人々。増加する児童虐待、こどもの貧困、氷河期世代のキャリア形成機会の不足など、社会が生み出した弱い立場の人々。既婚のひとり親には認められている寡婦控除と同様の支援を未婚の母には認めてこなかったり、同性同士のカップルの婚姻を認めなかったりと、家族のあり方に関する価値観がもたらす制約を受ける人々もいる。

 世界に目を向ければ、貧困や飢餓にあえぐ人々や難民のように命を脅かされる人々だけでなく、香港で戦う若者たちが示すように社会の自由が脅かされている地域も随所で見られる。

 新しい年を迎えるにあたって、自分たちの中にある偏見を捨て、多様な価値観を受容する社会づくりに、企業や自治体が果たすべき役割を痛感する。政府からSDGs未来都市に選ばれた福岡県福津市でも、「自分さえよければいいをなくそう」を合言葉に、取り組みを広げていきたい。

 【略歴】1958年、津市生まれ。三重大教育学部卒、米イリノイ大経営学修士(MBA)。2017年12月から現職。福岡県男女共同参画センター「あすばる」の前センター長。内閣府男女共同参画会議議員、内閣府少子化克服戦略会議委員。

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