犯罪被害者支援 全自治体で条例の制定を

西日本新聞 オピニオン面

 京都アニメーション放火殺人事件や高齢者を狙った特殊詐欺事件が相次ぐなど、今年も許し難い犯罪が目立った。被害者の陥った境遇はさまざまで、求められる支援も多岐にわたる。

 そんな人々を物心両面で支える犯罪被害者基本法の成立から今月で15年が過ぎた。警察や自治体、弁護士を中心とした支援が各地で展開されている。それでも心身の傷は深く、平穏な生活を取り戻すのに長い月日がかかるケースもある。きめ細かで息の長いケアが欠かせない。

 7月に起きた「京アニ事件」では36人が死亡し、33人が重軽傷を負った。混乱した状況の中で京都犯罪被害者支援センターが遺族や負傷者の家族をサポートした。個別相談や情報提供に加え、当面の生活資金や家事支援といった切迫した課題の対応にも追われたという。

 基本法は自治体に対し、見舞金や生活資金の支給、住居の確保、ヘルパー派遣などの施策を導入するよう求めている。実現は全国的に遅れ気味だ。九州で県と全市町村レベルで関連条例を制定しているのは佐賀と大分の2県しかない(今年4月現在)。他県は大きな宿題である。

 犯罪被害による死傷者は年間約2万9千人に上る。いつ、どこで、誰が巻き込まれるのか予想もできない。その支援は、全員で支え合う社会保障の発想が必要だと指摘したい。全ての自治体に十分な支援のセーフティーネットを整えるべきだ。

 中でも心的外傷後ストレス障害(PTSD)などに対応するには医療を含む専門機関の存在が不可欠だ。支援が早いほど早期の回復も期待できる。県域を超えた協力態勢を築きたい。

 特殊詐欺の被害者では多額の現金をだまし取られたショックから心身の不調を訴える人が後を絶たない。「自分だけはだまされない」と信じてきた高齢者ほど屈辱感が強く、自分に自信が持てなくなるからだろう。心理面のサポートが必要だ。

 犯罪の種類を問わず、被害者が損害賠償訴訟で勝利しても、加害者側に支払い能力がなく、泣き寝入りするケースも多い。訴訟費用まで被害者が負担せざるを得ない例もあり、理不尽さを重ねて味わうことになる。

 事件で一家の大黒柱を失い、生活に困窮する遺族もいる。賠償金を国が立て替え、生活を支える制度も検討すべき課題だ。ノルウェーなどでは既にこうした制度を導入している。

 戦後日本では長らく、被害者支援に光が当たらず「忘れられた存在」とも批判されてきた。基本法はそうした反省から生まれた。被害者や家族の声に耳を傾け、制度を不断に点検し、必要な改善を急ぎたい。

PR

社説 アクセスランキング

PR

注目のテーマ