ママもパパも誰も悪くない 菊池良和(九州大病院・吃音外来医師)

西日本新聞 医療面

吃音~きつおん~リアル(10)

 3歳2カ月の男の子のケースです。ある日を境に「ア、ア、ア、アンパンマン」と、急に言葉を繰り返すようになりました。1歳から保育園に通っており、保育士から「吃音(きつおん)が始まったのではないか」と指摘があったそうです。つい昨日まで流ちょうに話せていたのに、突然、最初の言葉を繰り返したり、不自然に引き伸ばしたりする症状が見られ始めたのです。

 母親が夫に話すと「(母親が男児を)怒ってばかりだからじゃない。放っておけば、そのうち治るよ」と冗談交じりに言われました。男児の祖母には「あなたが早くから保育園に預けて働いているから、母親の愛情が足りていないんじゃない?」と言われました。

 こうした言葉に母親は目の前が真っ暗になりました。インターネットでも同様の内容があふれているのを見て「私が悪いんだ」と自分を責めました。

 知人に「吃音のお医者さんがいるから、話を聞いてみたら」と勧められて、私の「吃音外来」に来院されました。私はまず男の子と簡単な会話を交わし、クイズと称した吃音検査をしました。

 次に、母親が書いた事前問診票に「自分が原因ではないかと悩んでいる」といった記述を見つけました。「お母さん、誤解されてつらかったですね。お母さんのせいではないですよ」。こう伝えると、うつむいていた顔が上がりました。

 吃音は以前、親の関わりや育て方が一因だといわれていましたが、最近の世界の研究に基づき、持って生まれた体質が原因だと考えられるようになりました。言語発達の盛んな2~4歳の頃に始まる子どもが最も多く、急に始まる例が多いことも知られています。

 「お母さんは、子育てに自信を持って良いのですよ」。母親の顔はぱっと明るくなりました。吃音外来はまず親を支援する場。ママもパパも悪くない。吃音が始まった子の親が周囲に理解されることで、親は客観的にわが子を見ることができるようになります。それが子どもの幸せにつながります。(九州大病院医師)

PR

医療・健康 アクセスランキング

PR

注目のテーマ