石木ダム強制収用、苦悩する前町長 今秋、反対派団体に参加

西日本新聞 社会面 平山 成美

■地域の人間関係分断招いた

 長崎県川棚町の石木ダム問題で、町長在職中は事業を推進してきた竹村一義さん(72)が今秋、反対派の市民有志でつくる「石木ダム・強制収用を許さない県民ネットワーク」に加わった。ダム事業自体には反対ではないが、用地の強制収用が可能になった今、予定地で立ち退きを拒む13世帯を公権力で排除することには疑問を抱く。複雑な胸中を語った。

 竹村さんは町議を経て、2002~10年に町長を務めた。事業主体の県と同県佐世保市が09年10月、土地収用法に基づいて、強制収用が可能になる事業認定を国に申請する際には、知事や市長と並んで記者会見した。「半ば無理のある話し合いをしてでも、早く解決させた方が地権者にとってよいのではないか」と考えていた。

 それから10年間、反対住民と県が話し合う場はほとんどなかった。今年9月には法に沿って、予定地の所有権が住民から国に移った。県は住民を強制的に立ち退かせる行政代執行ができるようになり、両者の溝は深まるばかりだ。

 県も09年当時は「話し合いを進めるための事業認定だ」と説明していた。「住民を説得できなかった力不足を、今となって強い権力に頼るしかないのか。あのときの説明に立ち返れば強制収用はできないだろう」

 川棚町で生まれ育った。立ち退きを拒む13世帯の中には中学時代の同級生がいる。予定地から移転した住民にも知り合いがいた。狭い地域の人間関係は公共事業によって分断された。「ダム計画がなければ遭わなかった苦しみ」を知るからこそ、やり切れない。

 ダム事業そのものには反対ではない。大規模化する集中豪雨被害や、佐世保市民が苦しんだ渇水を防ぐ効果はあると思う。それでも、強制的に進めるのは釈然としない。

 9月、県民ネットワークに加入した。「『今更なんば言いよっとか』と言う人もいるだろうが、ささやかな意思表示だ」。町長退任後、石木ダム関連の取材に応じたのは初めてという。

 中村法道知事は「強制収用は最後の最後の手段。その前にご理解いただける機会があれば、努力を重ねたい」と話す。だが、竹村さんは首をかしげる。これまで住民や県民が、理解できるような努力をしてきたのか疑問を覚える。

 石木ダム事業が国に採択されて来年は45年になる。「いよいよダムができるところまできた、とは思わない。本当にできるだろうか」。探るように言葉を継いだ。 (平山成美)

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【ワードBOX】石木ダム事業

 長崎県と同県佐世保市が、治水と市の水源確保を目的に、川棚町の石木川流域に計画。1975年度に国が事業採択し、総貯水量は548万トン。当初完成予定は79年度だったが、県は延期を繰り返し、今年11月には2025年度に見直した。県収用委員会の裁決に基づき、予定地で暮らす反対住民の土地や建物の所有権は国が取得。11月18日の明け渡し期限を過ぎ、県の行政代執行による強制収用の手続きが可能になった。福岡高裁は同29日、国の事業認定取り消しを求めた住民らの訴えを棄却した。

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