世界一忙しい教員の残業、正当な評価は? 国は「対価」改善見送り

西日本新聞 くらし面

 公立学校の教員の働き方改革を進める「改正教職員給与特別措置法」(改正給特法)が今月、国会で成立した。現行法は残業代を支払う規定がなく「働かせ放題」と批判されてきたが、今回はこの点には踏み込まず、代わりに勤務時間を年単位で調整する「変形労働時間制」を導入して負担軽減を図る形になった。見直しの背景と課題をまとめた。

 「中学校は1週間で56・0時間、小学校は同54・4時間」-。経済協力開発機構(OECD)の2018年の調査によると、日本の教員の勤務時間は世界で最も長かった。世界一忙しい現状が示された。

 一方で公立学校の教員は残業代に関して労働基準法が適用されず、一切支払われないのが原則。その根拠になっているのが給特法だ。

 法は1971年に制定され、公立学校の教員に原則、時間外勤務を命じないとする。課すことができるのは(1)生徒の実習(2)学校行事(3)職員会議(4)災害などの非常時-の4項目のみ。残業代が出ない代わりに「教職調整額」として、月給の4%を一律に支給する。これが長く、「定額で働かせ放題」と批判されている。

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 この運用にしている理由に、国は教員の業務の特殊性を挙げる。

 授業や実習を充実させる準備、いじめ防止の面接などは、教員の自主性によるもので、上司に命令されて行う性質のものではないという考え方。夏休みのような長期休業もあり、残業代支給はなじまないとする。

 しかし、現状は法制定時と異なる。教職調整額の4%は、残業時間が1カ月平均で8時間だった70年代を基に算定された。今は、残業がこの10倍以上の教員が中学校で6割、小学校で3割を占める。内容も部活動の指導や書類作成など4項目以外がほとんどだ。

 自主的な扱いになっている残業を時間外労働と認めて労働環境を改善し、賃金の手当てもすべきだ-。現場の声は強かったが、国は財政事情などから「中長期的な課題」と見送った。

 代わって始めるのが、勤務を繁忙期は延ばし、閑散期は短くする変形労働時間制。残業の在り方には踏み込まず、勤務体系を変えて対応する形にとどまった。

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 時間外の多くが自主的な行為とみなされていることで、学校の労務管理の意識が低下し、長時間労働を招いているとの指摘もある。

 福岡県内の公立中学校の女性教諭(24)は毎日、自分で出退勤時刻と残業内容を記録し、月末に管理職に届けている。職場では出勤簿に押印するだけで、タイムカードがないためだ。

 テストの作成や丸付け、教材研究、書類作成はほぼ時間外にずれ込む。上司は「残業はあなたが好きでやっている」「あなたの勉強のため」と取り合ってくれない。教諭は「午後10時まで仕事をすることもあるが、ほとんど残業と認められない。こんな状況なら、先生になりたいという人はいなくなると思う」と話す。

 教育研究家の妹尾昌俊さんは「残業代を支払うようにすれば、長時間労働が抑制されるかと言えば、必ずしもそうとは言えない」とした上で、「給特法が残業を労働として認めず、対価も支払わない点は、教員業務の『特殊性』という理屈では説明できず、今回の改正で積み残された課題だ」と話している。(本田彩子)

過労死教員の遺族「さらに犠牲者増える」

 今回の給特法改正は、教員を過労などで失った家族も反対の声を上げている。

 改正の柱である変形労働時間制は、年度初めなどの忙しい時期に勤務時間を延ばし、夏休みにまとめて休みを取りやすくする目的がある。

 高校教諭だった夫を2017年に亡くした安徳晴美さん(53)=北九州市=は「先生には夏休みも含め、閑散期などない。業務の見直しもないまま導入すれば長時間労働が助長され、過労死が増える」と訴える。

 見直しでは、時間外勤務の上限を「月45時間、年360時間」とする文部科学省の指針も法に格上げされた。しかし、業務量を減らさずに退勤だけを強要する「時短ハラスメント」の問題も指摘されている。

 12年前に中学教諭の夫を失った工藤祥子さん(53)=東京都=は「実際の運用は国ではなく、自治体に丸投げされた状態。月45時間の時間外の上限は実態とかけ離れており、業務をどう減らしていくのか、見えない点が多い」と話した。

【改正給特法】変形労働時間制の導入と、時間外勤務の上限設定が明記された。変形労働時間制は自治体が条例を定めれば2021年4月から導入できる。行事などが集中する4、6、10、11月に週3時間ほど勤務時間を増やし、8月に休日を5日ほど取得する形が想定され、具体的な運用は自治体や学校に委ねられる。時間外勤務の上限設定は来年4月から適用され、罰則規定はない。

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