夫が強制不妊手術、妻は救済対象外 「差別助長」と国提訴

西日本新聞 社会面 鶴 善行 古川 大二

 旧優生保護法(1948~96年)下で不妊手術を受けさせられたのは、憲法が定める幸福追求権などを侵害して違憲だとして、福岡県に住む聴覚障害者の80代男性と70代の妻が24日、国に計2千万円の損害賠償を求めて福岡地裁に提訴した。旧法を巡る同種の訴訟は福岡では初めて。全国の原告数は24人となった。

 訴状によると、60年代後半に夫は父親の知人から病院に連れていかれ、何の説明もなく不妊手術を受けさせられた。国は優生思想に基づく政策を推進し、差別がまん延する状況を把握しながら旧法を放置した、と訴えている。

 九州では、実際に不妊手術を受けた2人が国に賠償を求める訴訟を熊本地裁に起こしているが、手術を受けた本人以外の家族が原告となるのは初めて。妻は「愛する者との子を持つ機会を奪われた」などとして、夫と共通の損害を被ったとしている。

 弁護団は「手術によって夫は『本来生まれてはいけない存在』との烙印(らくいん)を押された。旧法の制定や関連する政策が展開されたことで、障害者に対する差別と偏見がつくられ、助長された」と主張。同種訴訟において優生政策が差別、偏見をつくり出した点が争われるのは初めてという。

 各地で同種訴訟が起こされる中、初の司法判断となった5月の仙台地裁判決は、旧法を違憲とする一方、国の賠償責任は認めなかった。

■無念「夫婦の問題なのに」 聴覚に障害、手話で訴え

 「本当にもう悔しい思いでいっぱいです」。24日、提訴手続きを終えて記者会見した原告夫婦は、手話通訳を介し、子どもを持つ希望を絶たれた無念さを語った。夫が不妊手術を受けさせられた妻は、自身は手術を受けていないため、国の救済対象からも外れている。「子どもが産めなかったのは夫婦の問題なのにおかしい」と訴えた。

 原告側は、旧法と関連する政策などで障害者に対する差別が生じたと訴えている。夫婦ともに幼い頃から耳が聞こえず、肩身の狭い思いをしてきた。

 若い頃、手話は「手まね」と揶揄(やゆ)されたという。当時、手話教育は十分なされておらず、学校生活では手話は禁止され、学業への意欲も持てなかった。妻は「ばかにされても怒ることもできない。街中では手話をしないようにするしかなかった」と明かした。

 夫が説明もなく不妊手術を受けさせられたのは、結婚するわずか1週間前のこと。結婚後、子どもを望んだがかなわない。夫に尋ねると、不妊手術について打ち明けられた。「衝撃だった。毎日毎日泣いていた」。夫に何度も謝られた。

 結婚して約半世紀。夫婦間に「子どもがいなくてさみしい」との話題が途切れることはなかった。夫は20年ほど前に脳梗塞で長期入院し、80代となった今も介助が欠かせない。「音が聞こえないので夫の体調の急変にすぐ気づけるのか、不安は消えない」。夫婦で「子どもがいたら介助も助けてくれたのに」と嘆く。

 旧優生保護法を巡っては4月、被害者へのおわびと一時金320万円を盛り込んだ救済法が成立、施行された。それでも提訴を決意したのは、一時金の支給対象が不妊手術を受けた本人に限られ、救済内容が不十分と感じたからだ。「私と同じような境遇で救済対象から外れた人も全国にいるはず。国にきちんと謝罪してほしい」 (鶴善行、古川大二)

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