聞き書き「一歩も退かんど」(49) たたき割り国賠提訴 志布志事件冤罪被害者 川畑幸夫さん

西日本新聞 オピニオン面 鶴丸 哲雄

 「たたき割り」。それは人の心を打ち砕く鹿児島県警の取り調べの手法。犠牲になったのが鹿児島県志布志市の消防団長、浜野博さんと妻の栄子さんでした。

 まず栄子さんがありもしない罪を交番の窓からおらばせ(叫ばせ)られました。続いて県警は2004年5月18日、志布志署で浜野さんの取り調べを開始。浜野さんも現金をもらっただろう、と責めたのです。

 浜野さんは県議選を前にしたその年の2月、消防団の会合で団員に「われわれは準公務員だから選挙運動は慎むように」と訓示していました。ですが、取調官は、浜野さんの無実の訴えなど聞き入れません。両手をそろえて机の上に載せておく姿勢を10時間も強制。姿勢を崩すとノートで両手をたたいたそうです。

 その後、取調官が私を調べたT警部補に代わり、場所が宮崎県警串間署に。「陰の協力者になってくれ」と持ちかけてきたのです。志布志事件ではビールと焼酎供与事件の立件が頓挫。容疑を補強するのが県警の狙いだったと思います。

 T警部補は「どうしても認めないなら、家族を一から調べる」と脅します。栄子さんは既に心的外傷後ストレス障害(PTSD)に近い状態。浜野さんは観念します。「20万円を受け取り、消防団員8人に1万円ずつ配り、残りは自分で使った」と、でっち上げの自白をしたのです。後日、私に打ち明けました。

 「これじゃ嫁さんが殺されると思って、言いなりになろうと…。泣きながら調書にサインした」

 06年1月、朝日新聞がこの事実をスクープし、志布志の不当捜査に全国の注目が集まりました。私は浜野さん宅を訪れ、「今こそ訴えないかんど。そうせんと金をもらった話は消えん」と説得しました。最初は提訴を渋った浜野さんですが、消防団の仲間に思わぬ励ましを受けます。

 消防団の飲み会があり、浜野さんは勇気を振り絞って団員たちに事実を打ち明け、謝りました。「警察でおまえたちの名前を出した。すまなかった」。すると、団員たちは「何のー、よかよか」「団長、訴えーい!」。浜野さんは感激でまた泣いたそうです。

 浜野さんは4月18日に記者会見を開き、不当な取り調べを告発。10月27日に志布志事件の取り調べで被害を受けた計8人で「たたき割り国家賠償訴訟」を起こします。そしていよいよ、私の踏み字国賠訴訟の判決も近づいていました。 (聞き手 鶴丸哲雄)

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