車いすで聖火ラン「感謝を込めて」 福岡・福智町の71歳絵手紙講師

西日本新聞 筑豊版 丸田 みずほ

 仕事中の事故で頸髄(けいずい)を損傷し、電動車いすで生活する福岡県福智町の相浦善司夫さん(71)が、東京五輪の聖火リレーを走る。身体障害者として過ごすことになった人生を、趣味に恋愛にと、はつらつと生きるランナーは「お世話になった人たちに感謝を込めて走りたい」と本番の日を待ち望む。

 事故は土木業を営んでいた約22年前。地面に穴を掘り木材を焼却処理した後の鎮火確認中、うっかり踏み外し転落した。冷え込む2月の早朝だった。「言葉も出ず、凍死するかと思った」(相浦さん)。約2時間後、出勤した従業員が発見し、総合せき損センター(飯塚市)に搬送された。

 全身を動かすことができなくなり、字は書けず、排尿も困難になるなど生活は一変。リハビリに取り組み、車いすに乗れるようになったものの、事故後10年ほどは人に会うのが嫌になった。周囲には「相浦は事故で死んだ」と思われていた。

 転機は、孫と一緒に地域の催しに出かける楽しみができたこと。リハビリに一層励もうと、小学生の頃に夢中になった絵描きを再開した。元々勉強するふりをして始めた趣味で、習いに行ったことはなく、作品集などを見て独学でやってきた。

 しかし、昔とは違い、パレットの準備や絵の具のふたの開閉に手間がかかる。そこで、絵の具代わりに左手に水彩色鉛筆を数本、髪ゴムで固定。右手の水筆ペンで色を塗る方法をひらめいた。季節の植物や似顔絵を描けるようになり、あるとき新聞に絵手紙を投稿。すると、友人から同窓会に呼ばれるようになり、絵手紙は思いがけず「生存確認」につながった。

 障害を負い、ふさぎ込む人もいるが、「とにかくやってみようという気持ちや、ここぞというタイミングを逃さず大切にしてほしい」と相浦さん。それは、障害の有無に関わらず伝えていきたいことでもある。

 自身も聖火ランナーへの応募は「車いすだし…」と一瞬躊躇(ちゅうちょ)したが、医者や入所する施設の職員に背中を押され「せっかくなら」と締め切り1週間前に応募を決意した。内定を聞いた時は「まさかと思ってうれしかった」と、すぐにペンを取ってトーチを手に走る自分の姿を描いた。

 現在、田川市内の福祉施設で絵手紙の講師を務め、「先生なんて呼ばれてこそばいよ」と笑う。心の支えである彼女とは、たまに食事や買い物を楽しむといい、充実した日々を送る。

 「人生捨てたもんじゃないね」

 当日は、付き添いを快諾してくれた孫とともに走り、元気に生きる姿を多くの人に見てもらうつもりだ。 (丸田みずほ)

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