差別か否か「線引き」せず、対話を促し

西日本新聞 くらし面 三宅 大介

連載:バリアフリーの現在地(2)

 障害者差別解消法とは実際、どんなルールなのだろう。福岡県の相談窓口を訪ねた。応対してくれた「障がい者差別解消専門相談員」の多田眞哉(しんや)さん(63)は、障害者施策に10年以上かかわってきたベテランの職員OB。「間違われやすいのですが、ある行為や事象が差別に当たるのか、当たらないのか『白か黒か』と線引きして、順守を迫る禁止法ではありません」

 目的は、障害があってもなくても誰もが暮らしやすい世の中になること。「社会自体が、バリアー(障壁)を取り除いていくよう推進する法律なんです」

 ●差別は定義が困難

 同法の特徴は、障害のある人の暮らしやサービスに広くかかわる「事業主体」である、役所などの行政機関と、店や企業など民間事業者に「具体的な取り組み」を求めていることだ。

 まず、正当な理由なく障害があること自体を理由に、機会の提供を拒んだり制限したりする「差別的な扱い」を禁止。その上で、本人側から必要な対応について訴えがあった場合に、負担が重すぎない範囲で「合理的配慮」を行うよう、行政機関には義務付け、民間には努力義務とした。

 一方で、差別の「中身」は定義せず、直接の罰則規定も設けてはいない。

 何を差別だと感じるかは障害の種類や程度によって人それぞれ。「視覚障害者用の点字ブロックは車いすでは通りづらい」(多田さん)など、配慮自体が、誰かにとってはバリアーになる可能性もある。

 障害のある人が差別と感じるさまざまな事象に、決して白黒をつけるわけではなく、当事者間で「建設的な対話」(内閣府)をしながら、差別について共通認識を深め、社会全体に蓄積していく-。そんな狙いがうかがえる。

 ●理解されないまま

 しかし、内閣府の世論調査(2017年)によると同法を「内容も含めて知っている」人は5・1%。多田さんは「行政機関でさえ、十分理解しているとは言いがたい」と言う。

 16年の施行以降、同県が対応した関連の相談は計76件。実際は「泣き寝入り」している障害者も少なくないとみられる。

 ある中学校では、電動車いすに乗る生徒の入学式への出席を階段があることを理由に認めなかったり、幼稚園が進行性難病の子どもの入園自体を断ったり。盲導犬などの同伴を拒む飲食店やホテルがあったほか、「印象が悪くなる」として知的障害者への物件を拒否する不動産業者も。

 県はいずれも相談員が調整を仲立ち。結果、相談者への謝罪や「段差は車いすを数人で抱え上げる」「障害のあるお客のためにスペースやいすを用意する」などの合理的配慮がなされ、対応の改善につながったケースは少なくない。

 場合によっては消費生活センターや弁護士会も交え、時には出向くなどして相手方と協議することもあり「やはり時間はかかりますが…」(多田さん)。

 ●「前例ない」は禁句

 自治体は同法の推進も求められており、県は17年に推進条例も策定。行政や民間を対象に出前講座などを開き、周知に努めている。

 その際、多田さんが「特に行政職員を相手に必ず強調している」のは「しっかり相手の話に耳を傾け、前例がない、特別扱いできない、もし何かあったら、と言い訳しないこと」。障害のある人に、ない人と同じ「平等の機会」を提供するための配慮は、決して優遇措置ではない。また障害者を受け入れることによる「漠然としたリスク」も不安視されがちだが「これも断る理由にはなりません」。

 ただし、合理的配慮などの規定は「誰かに嫌がらせを受けた」など個人間の争いは対象外。また街角の段差や施設の不備などハード面の「環境の整備」も、努力義務にとどまる。予算面などから、現実的には一朝一夕に解決できないことが理由とみられるものの、こうした意味で、法律は“限定的”でもある。

 「当事者の訴えを機にルールを知り、互いに対応を考え、積み重ねれば、意識も少しずつ変わる。そうなればハード面の改善も進んでいくのでは」と多田さん。差別とは、配慮のあり方とは。社会全体で問い続ける以外に、道はない。 (編集委員・三宅大介)

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【ワードBOX】合理的配慮

 障害者権利条約の定義では、障害のある人が、ない人と平等の自由や権利を行使・確保するために、具体的に何かを変更したり、調整したりすること。過度な負担を課さないもの、とされる。公的なサービスを提供する場合、従来は「全員一律」が平等と考えられてきたが、たとえ提供の「量」が異なったとしても、「平等の機会」を確保していく取り組みだ。

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