【動画あり】2時間半の特別な旅 「ザ・レールキッチン・チクゴ」ルポ

西日本新聞 筑後版

 昨春、福岡県の西鉄天神大牟田線で観光列車「ザ・レールキッチン・チクゴ」が走り始めた。車内では同県筑後地方の野菜や小麦粉を使ったピザなどを提供。内装には八女市の竹を久留米市の籃胎漆器(らんたいしっき)の技で編んだ竹細工などを施す。筑後の魅力を詰め込んだレールキッチンに乗ってみた。

 ■結婚記念日の日仏夫妻 / 沖縄帰郷前の思い出に / 祖母の誕生日をお祝い…

 金曜、高校生が電車を待つ大牟田駅のホームで「ザ・レールキッチン・チクゴ」は夕日を浴びていた。

 非日常にいざなうトライアングルが出発を告げる。列車がゆっくり動きだすと、長身のカップルが、あまおうのスパークリングワインで乾杯した。「この1年もありがとう」。フランス在住の元山裕恵さん(43)とヴィンセント・シダーさん(44)。11回目の結婚記念日を祝っていた。

 元山さんは山口出身。帰省中に特別な日を迎えた。干しイチジクにバターを添えた前菜を前にシダーさんは冗舌だ。「日帰りで楽しめる食堂車は珍しい。ラグジュアリーかつカジュアルなコンセプトは天才的!」

 窓の外で、筑後の田園風景は暗さを深める。グリルやマリネで味を引き立てた野菜の盛り合わせに沸く4人が。「どの野菜をどう使うのか興味があった」。熊本を拠点とする野菜ソムリエたち。「野菜を素のまま生かすことを考えさせられた」。原田久枝さん(73)の言葉に皆うなずく。

 おなかの大きな女性に乗務員が毛布を手渡す。卓上には鶏肉のグリル。「今おなかを蹴った。タンパク質が必要なんだね」。宮里早(さき)さん(35)が笑う。出産を控え、福岡の仕事を辞めて故郷沖縄に帰る。迎えに来た妹と一緒に乗った。「肉も魚も野菜もおいしい福岡の思い出にしたくて」

 香ばしい匂いを運んでピザが窯から出てくる。母娘3世代が囲むテーブルで、誕生日を祝われた福岡市の西原美智子さん(85)は「冥土の土産だ」。孫のえり子さん(27)は「長生きしてね」とほほえんだ。

 三沢駅の近く。旗を振って跳びはねる「たこやき工房じゅん」の夫妻が見え、車内は和やかになった。

 車掌の松尾珠衣さん(21)が記念乗車券を配り始めた。レールキッチンの車掌の最年少で大牟田市出身。西鉄初の女性運転士になった高校の先輩に憧れ、西鉄に入ったという。

 壁の城島瓦のタイルや久留米絣(かすり)の額を見ながら、歓談する大牟田市職員3人組がいた。「筑後の魅力を再発見できました」と前田由紀子さん(49)。旅の終盤、車掌の松尾さんが「炭坑節」を披露すると、手拍子で応えた。

 終点が近づき、車窓の夜景は輝きを増す。すれ違う電車は、疲れをまとった勤め帰りの人で満員だ。心の中で「おつかれさまです」とつぶやいた。林立するビルを抜け、福岡(天神)駅に到着。後ろ髪を引かれつつ、2時間半の旅から日常に戻った。

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