AIで読み解く安倍首相の言葉 「右寄り」よりから転換、あえて玉虫色

西日本新聞 総合面 川口 安子

 為政者の発する「言葉」は国が進む方向を人々に示す政治の羅針盤だ。26日で第2次政権発足から7年が過ぎた安倍晋三首相。その言葉の変遷を、人工知能(AI)と識者に読み解いてもらった。保守政治家としての理想に固執して短命に終わった第1次政権から、政策推進のためならリベラル派にも聞こえがいい言葉を使うなど、現実主義者に変身した姿が見えてきた。

支持獲得へバランス意識

 第1次と第2次政権で、首相の施政方針演説と所信表明演説の全単語の使用頻度を、ベンチャー企業「ユーザーローカル」(東京)が提供する「AIテキストマイニング」を活用して比べた。登場回数が多く、かつ特徴的な単語が大きく表示される。

 第1次で目立つのは、首相の国家観である「美しい国」や、「取り組む」「目指す」などだ。一方、第2次では「美しい国」は一度も使われず、「世界」や「経済」「力強い」などが大きくなった。「皆さん」と語り掛ける口調が多い。

 この違いについて、慶応大の片山杜秀教授(政治思想史)は「第1次では『右寄り』の政権カラーが読み取れるが、第2次になると世界の中でバランスを意識した曖昧な言葉が増えている」と分析する。

 メディアと政治の関係に詳しい東京工業大の西田亮介准教授(社会学)は、第2次の方が「進める」などより断定的な表現になっていると指摘。「生き方に正解がなく不安な現代では、断定調が支持される。壇上で左右を見渡し力強く言い切るなど、演説の見せ方にも気を使っている」と話す。

 一方、第1次、第2次に共通するのが「新しい」「改革」といった「なんとなく良さそうな言葉」だ。西田准教授は「働き方改革」など、安倍政権の数々のスローガンも同じだと考察する。例えば、首相が来年の「最大のチャレンジ」に掲げる「全世代型社会保障改革」。若者世代の負担軽減のため、後期高齢者の医療費負担を増やそうとしているが「『全世代型』の言葉を使うことでシニア層の反発を招きにくくしている」という。

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 現実主義者になった首相が、言葉の選択を「大転換した」と首相周辺が口をそろえるのが、第2次政権の2015年8月に閣議決定された戦後70年談話だ。

 満州事変や国際連盟脱退などについては<進むべき針路を誤り>と表記し、首相を強く支持してきた強硬な右派層の歴史観とは一線を画した。官邸幹部は「首相は内心思うところはあったろうが、今の国際環境を見て転換が必要と判断した」と解説する。

 片山教授は、談話に<(子孫に)謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません>など、右派的な考えも盛り込まれていることに着目する。「いろいろな立場の人に耳当たりの良い言葉がちりばめられ、全体を通すと一貫性がない。玉虫色の言葉によって最大多数の支持を得る政権の特徴がよく出ている」。言葉であえて「方向」を明示しないことが、長期政権維持につながっているとする。

 書籍や新聞など活字文化の衰退が指摘され、若い世代が政治の「言葉」と接する機会は減っている。官邸や政治家は情報をインターネットで直接発信し、文章よりも画像や動画が増え、西田准教授は「政治から言葉が離れ、今後、さらに直感的なものに移っていく」と推測。国の事業としては予算規模が小さいにもかかわらず、「桜を見る会」問題が安倍政権の想定以上に世論の関心を集めたのは、芸能人や反社会的勢力とみられる人物の写真など「画(え)の力が大きかったからだ」とみる。

 「なんとなく―」で思考を止めず、より具体的な本質に目を凝らす。私たち有権者も「言葉」との向き合い方を意識的に変える必要がありそうだ。(川口安子)

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