聞き書き「一歩も退かんど」(51) 涙の出るような怒り 志布志事件冤罪被害者 川畑幸夫さん

西日本新聞 オピニオン面 鶴丸 哲雄

 「密室での取り調べにもかかわらず、少ない証拠で的確な事実認定をされた裁判所に敬意を表します」「こちらの言い分が可能な限り認められ、完全勝訴に近い判決です」-。

 2007年1月18日、中原海雄弁護士、野平康博弁護士らが笑みを浮かべて記者会見をしています。私が起こした踏み字国家賠償訴訟の第一審は、私の勝訴、鹿児島県の敗訴で決着しました。認められた賠償金は請求の200万円に対し60万円でしたが、金額は問題ではありません。

 まず、踏み字の回数について、判決は「少なくとも3回」と認定し、「1枚の紙に足先を置いた」とのH警部補の主張を完全に退けました。そして「踏み字が違法な有形力の行使(暴行のこと)であることは明らか。こうした取り調べ手法はたった1回でも違法」と断罪。さらに「その手法は常軌を逸しており、公権力をかさに着て原告と原告の関係者を侮辱した。被告の精神的苦痛は甚大」と一刀両断したのです。

 さらには、(1)トイレに監視を付けたことは退去の自由の侵害(2)「弁護士を呼んでください」との被告の要請を無視して取り調べを続けたのは弁護人選任権の侵害(3)所持品検査は令状に基づかず違法(4)入院を要する健康状態の被告を夜まで取り調べたことは違法-と、判決文は「違法」のオンパレードでした。

 ですが、私の心に湧いたのは、喜びよりも悔しさでした。私には、もしH警部補が「川畑さん、すみません」と頭を下げてきたら、裁判を取り下げていいという気持ちがありました。でもH警部補は法廷で一言も真実を述べませんでした。それが残念で残念で…。

 記者団にコメントを求められると、涙がこぼれてきました。こう言葉を絞り出しました。

 「うれしさよりも、警察に対する涙の出るような怒りでいっぱいです」

 10年以上たった今も、私は判決当日のことを思い出すと、涙が出ます。前回、判決後に勝訴の花火を志布志のホテルで打ち上げた話をしましたね。いくら自分は冤罪(えんざい)の被害者だと訴えても、周囲には犯罪者を見るような目が多いのです。「おいはやってないどー、勝ったどー」と、志布志中(じゅう)の人たちに知らしめたかった。妻の順子と相談して注文した花火には、そんな思いがこもっていたのです。

 何はともあれ、最初の闘いには勝ちました。さあ、これから攻めますよ。 (聞き手 鶴丸哲雄)

PR

社説・コラム アクセスランキング

PR

注目のテーマ