「UDフォント」暮らしの中に 弱視や読字障害でも読みやすく

西日本新聞 くらし面 川口 史帆

 誤読を減らそうと開発された読みやすい字体「ユニバーサルデザインフォント(UDフォント)」の活用が広がっている。企業が家電や食品パッケージに表示したり、自治体が広報紙で使ったり。西日本新聞の記事も9日からUDフォントに変わったが、お気付きだろうか。障害の有無にかかわらず「皆に優しい文字」として種類が増え、子どもの学習に配慮した字体も開発されるなど、生活の中で静かに浸透している。

 ユニバーサルデザインとは、高齢者や障害者の不自由を軽減するバリアフリーと異なり、対象者を限定せず、誰でも利用しやすいように工夫された製品や施設のデザインのこと。この考え方で開発されたのがUDフォントだ。2006年、リモコンの文字が見えにくいと消費者から指摘を受けたパナソニックが、フォント会社と開発したものを「UDゴシック」と名付けたのが始まりとされる。

 1文字分のスペースを最大限使って字を大きくし、毛筆のような流れの曲線やとめ部分の出っ張りを削除。線の太さを均一にし、濁点が文字に重ならないようにしたり、字の空白部分を広くしたりしている。小さくても読みやすく、弱視の人も他の文字と見分けやすい。文字が反転したりゆがんだりして見える読字障害の人にも配慮し、「9・6」「め・ぬ」など似た文字の違いを強調する工夫を施している。

 これを基本に、複数のフォント会社が「UD明朝」「UD新聞体」など用途や雰囲気の異なるさまざまな字体を作っている。

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 UDフォントは生活のあらゆる場に広がっている。JR九州(福岡市)は12年から駅の構内図や時刻表、運賃表などへ導入。西日本鉄道(同)は18年、乗り場や目的地への行き方を示す案内板と乗客向けリーフレットで使い始めた。ハウス食品は10年からパッケージで利用。即席袋麺「うまかっちゃん」にも載せている。マルキン食品(熊本市)は20年に新発売する寒天麺など5商品で使うという。

 福岡市は17年から市政だよりで、鹿児島県南大隅町は今年7月から広報紙とホームページで使い始めた。

 比較的早い09年から使っているのは福岡県宮若市。市民から「広報の字が小さい」と指摘され、担当職員の林慎治さん(42)が採用を決めた。サイズは変わらないが「字が大きくなったね」と好評だ。住民票などでの導入も検討中で「読みやすければ目を通してもらえる。行政をより身近に感じてもらう試みの一環です」と林さんは言う。

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 変化は教育現場にも。従来、教科書には、線の太さに強弱があり、とめ・はね・はらいを強調した字体「教科書体」が多く使われてきた。ただ文部科学省の12年の調査では、通常学級に通う小中学生のうち、読字障害などで読み書きが苦手な児童生徒は2・4%。教科書体の特徴が学習の壁になる子もいる。このため、はねやはらいを残しつつ、線の太さが一定で判別しやすいUDの特徴も備えた「UDデジタル教科書体」をフォント会社が16年に開発。小学生向け国語辞典などで使われ始めた。

 また20年度に刷新される教科書の多くもUDフォントを導入。福岡市立小学校では11教科中、算数や英語など7教科で使われている。市発達教育センターの野口信介所長(55)は「読み書きの難しさは個人差が大きく、文字の拡大や行間の調整、音声で補う方がいい子もいる。読みやすい教材作りのひとつのツールとして活用したい」と話す。

 九州大芸術工学研究院の伊原久裕教授(61)は「UDをうたう字体は多様化していて、どれも万能ではない。看板や文章、電子機器など、用途によってどれが適切か正しく見極める必要がある」と指摘している。 (川口史帆)

子どもの学習に効果も

 UDフォントは本当に読みやすいのか。奈良県生駒市教育委員会は今年2月、通常学級の小学5年生116人を対象に実証実験を行った。

 1分間で「バナナは青い野菜です」などの短文を読ませ、それぞれ正誤を丸付けで回答する36問のテストを、従来の「教科書体」と、UDフォントの「UDデジタル教科書体」で1回ずつ実施。どちらが読み進めやすいか試した。その結果、平均回答数は教科書体が24問、UDデジタル教科書体は29・5問。全問回答できたのは、それぞれ4人と30人で大差がついた。

 市教委はUDフォントを評価し、4月から全小中学校の学習プリントなどで使っている。担当者は「読みが苦手で勉強に苦手意識を持つ子どもの助けになれば」としている。

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