営農50年、油被害で再開断念 大町町の夫婦「生きがいなくした」

西日本新聞 佐賀版 河野 潤一郎

 8月末の記録的大雨から28日で4カ月。鉄工所工場から流出した油混じりの水に漬かった佐賀県大町町中島地区の専業農家、鵜池(うのいけ)隆幸さん(70)、智恵子さん(65)夫婦は今月下旬、現在の農地での営農再開を断念した。水没と油の付着で農機具が使用できず、「購入しても多額の借金を返せるのか。あと何年農業ができるのか分からない」との不安があるからだ。50年以上も懸命に耕した土地での農業を諦める。

 隆幸さんの父親が始めた農業。自宅周辺の農地約4ヘクタールでは県と町が土壌の油含有量を調査し、3カ所が「水稲の生育に影響を及ぼすレベル」と判断され、土を入れ替える方針となった。床上60センチまで浸水し油が付着した自宅も解体する。

 夫婦は米と麦、大豆に加え、特にキュウリに力を入れた。ハウスは4棟。次男の幸治さん(34)の3棟と合わせて無農薬にこだわり、消費者に味が評価された。親子で栽培方法を工夫して収量の多さを競った。そのハウスにも油の浮いた水が入り、作物は廃棄。施設は撤去を余儀なくされた。

 隆幸さんは子どもの頃から農業を手伝い、高校も定時制に通って昼間は働いた。それだけに今の農地に強いこだわりがあり、被災直後こそショックを受けたが、最近まで営農再開への思いを持ち続けていた。だがトラクターなどの農機具を地区で共同購入する見通しが立たず、個人負担では困難との判断に傾いた。

 憔悴(しょうすい)しきった夫の姿に、智恵子さんは「生きがいをなくしたと思う。麦まきして、田植えして、収穫してという計画があるから頑張る力が出る。油被害がなかったら農業を続けられた」と悔やむ。

 隆幸さんも驚くほどの技術を身に付けた幸治さんは「万が一、また油が流れたら」との懸念が拭えず、2021年にも町内の別の場所でキュウリ栽培を始める予定だ。夫婦は息子を手伝い、今の農地は自宅付近の農家に貸そうかと家族で話し合っている。

 「もし願いがかなうなら8月27日に戻り、鉄工所にすごい雨が降ると伝えたい」。智恵子さんは油被害に苦悩した4カ月を思い返し、唇をかんだ。 (河野潤一郎)

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