聞き書き「一歩も退かんど」(53) 正直じいちゃん大好き 志布志事件冤罪被害者 川畑幸夫さん

西日本新聞 オピニオン面 鶴丸 哲雄

 踏み字国家賠償訴訟の一審で敗れた鹿児島県は、控訴するのかしないのか-。2007年1月下旬。訴訟の代表者である伊藤祐一郎知事は「1回であろうと3回であろうと踏み字は許されない。ただ、判決には容認できない部分もある」と、どちらとも取れる発言をしていました。

 何より2月23日には、私の仲間の被告12人が闘う志布志事件刑事裁判の判決が控えていました。県警にとってはそちらへの影響も懸念され、今回の判決は認めがたいことでしょう。

 じりじりしながら行方を見守っていると、1月31日午後2時すぎ、自宅に一本の電話が。西日本新聞の湯之前八州(やしま)記者でした。

 「川畑さん。控訴断念です。県警本部長が発表しました」

 湯之前さんには今も東京のシンポジウムなどで会いますが、冤罪(えんざい)報道に熱心な方です。その湯之前さんによると、この日に県警本部の記者会見があり、久我英一本部長がこんなコメントを読み上げました。

 「(踏み字は)県警としても妥当性に疑いを生じさせかねない手法と認識しており、判決を重く受け止め、控訴しないこととしました」

 これで私の勝訴確定です。支援者から次々と祝福の電話がかかり始め、支援してくれた「住民の人権を考える会」の一木法明会長が訪ねてきました。

 「よかったなあ、川畑さん。本当によかった」

 そう言われて一木さんと握手すると、もう涙が止まりません。取材に来た記者に涙ながらで応対し、「3年9カ月は長かったけど頑張ったかいがありました。判決の日は真実を語らなかったH警部補への悔し涙でしたが、きょうはうれし涙です」と述べました。

 翌2月1日、考える会が急きょ地元の公民館で「川畑幸夫、順子さん 勝利おめでとう」と題し、勝利集会を開いてくれました。花束贈呈やあいさつの後、会から私に何やら特別なプレゼントがあるそうです。

 出てきたのは3枚の紙。そう、踏み字をもじった言葉が書いてあるのです。H警部補は「早く正直なじいちゃんになってください」と孫の言葉を書いた紙を踏ませました。それをもじった言葉がこう。

 「じいちゃん、正直なじいちゃんが大好き」

 真実は勝つ。もう最高のプレゼントです。それでは皆さん、どうぞよいお年をお迎えください。 (聞き手 鶴丸哲雄)

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