「親亡き後の自立」見据え 重症障害者が「実証実験」の2人暮らし

西日本新聞 一面 吉田 真紀

 医療的ケアが24時間必要な20代の重症心身障害者2人が、初めて親元を離れ、福岡市内の民家で共同生活を始めた。障害がある子をもつ高齢の親にとって「親亡き後」の住まいの確保は切迫した悩み。言葉や合図での意思疎通が難しい、重い障害がある人だけで住居を構える取り組みは全国的にも珍しいといい、関係者は「住まいの選択肢が限られる中、地元で持続的に暮らせる新たな形を確立したい」と話す。

 2人は重度の脳性まひで、数時間置きにたんの吸引や胃ろうなどが欠かせない水野ひかりさん(26)と倉光陽大(たかひろ)さん(23)。新居の民家「SharedHome(シェアードホーム)はたけのいえ」(同市早良区)の世帯主は、ひかりさんだ。ひかりさんの父で医療的ケアが必要な人を日中に預かる施設「小さなたね」(同)所長の英尚さん(52)が共同生活を発案した。10年前から親交のある陽大さんと10月から暮らしている。それぞれの個室や居間、在宅の障害者が宿泊を体験できる部屋もある。

 社会福祉法人全国重症心身障害児(者)を守る会(東京)によると、身体、知的ともに重度の障害がある重症心身障害児者は全国に推定約4万3千人おり、うち7割近くが在宅。「親亡き後」の住まいは重症心身障害児者施設(全国209カ所、計2万1819床=4月現在)が一般的で、多くの人にとって大切な住まいとなっているが「地元を離れなければならない人も少なくない」(英尚さん)という。一方、障害者グループホームは各地にあるものの、重症心身障害者の場合「看護が常時必要な上、24時間対応の医師も確保しなければならず、入れるホームは限られる」(同会)のが現状だ。

 住まいの選択肢を増やす実証実験でもある「はたけのいえ」だが、特別なことはしていない。これまで実家に来ていた看護師やヘルパーの訪問場所が新居になっただけだ。日中はそれぞれが通う施設へ。新居で過ごす朝夕は着替えや食事などで看護師らが常に出入りする。現在、午後8時から翌朝までは英尚さん夫妻が2人をケアしているが、今後は夜間も医療的ケアができる介護スタッフに任せることを検討。人材確保の面で乗り越えるべき課題はあるものの「完全な自立」を先に見据える。

 2人の主な収入は、それぞれ月約8万円の障害基礎年金。家賃は4万円(光熱費込み)で、看護師が医療的ケアを行う訪問看護や、ヘルパーが生活全般の支援を行う居宅介護などへの自己負担は実質なく、年金で全ての生活費を賄える。

 陽大さんの母登喜子さん(66)は夫(72)と長年、介護してきたが「自分が70歳になるまでに息子の最終的な住まいを決めたい」と考えていた。「若い親御さんもいずれ直面する問題。はたけのいえがモデルケースになったらうれしい」。陽大さんも家族以外に接する人が増え、笑顔が増えたという。

 地域の理解や支援も不可欠。今月15日には近隣住民も招いた餅つきを行い、約60人でにぎわった。英尚さんは「医療や福祉関係以外の人たちとのつながりもつくっていきたい」と話す。 (吉田真紀)

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