【あなたの米大統領選】トランプ氏、今も救世主? 米大統領選「揺れる州」ウィスコンシン

西日本新聞 国際面 田中 伸幸

 米大統領選は11月3日の本選に向けた候補者選びが2月に始まり、いよいよ本格化する。トランプ大統領の再選には2016年と同様、衰退が叫ばれる地方を抱える中西部での勝利が必須だが支持者の心境は-。西日本新聞あなたの特命取材班に届いた質問に答えようと前回、トランプ氏が番狂わせを演じたウィスコンシン州を訪ねると「救世主」と今も信じる人々がいる一方、失望し離反に傾く人も。「大統領の命運はここで決まる」。激戦の地は覚悟と高揚感で満ちていた。

 最大都市ミルウォーキー郊外にあるウォーキショー郡。氷点下まで冷え込んだ年末の夜、レストランでパーティーが開かれていた。トランプ氏率いる共和党の地元支部の懇親会だった。

 集まった50人余りの多くは選挙活動の電話などをするボランティア。「住民は『株価は史上最高。仕事も増えた』と大喜びだ」とトランプ氏の功績を口々にたたえ、盛り上がった。

 「でも16年の選挙当時、勝てるとは誰も思わなかった」。支部長のテリー・ディトリッチさん(57)は苦笑交じりに述懐する。

 国政、地方を問わず選挙の勝敗が民主党との間で入れ替わる「揺れる州」。ただ、大統領選は12年まで7回連続で共和候補が敗れていた。しかもトランプ氏は“不動産王”として著名とはいえ、政治の素人だった。

 ところが投票日が近づくに連れ集会への参加者が増えた。ラストベルト(さびた工業地帯)に重なる郊外や酪農の盛んな農村が海外勢との競争で打撃を受ける中「米国を再び偉大に」と叫ぶトランプ氏の声は、苦境にあえぐ地方に響いた。

 当選後、トランプ氏は規制緩和や減税といった景気浮揚策を実行に移し、失業率は改善。中国などとの貿易協議も進めた。「次も勝てる」とディトリッチさん。ただ、こうも続けた。「共和党が強いこの郡で票が伸び悩めば厳しくなる」

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 前回、民主候補は優勢と過信したのか、本選前に一度も州を訪れず票を伸ばせなかった。わずか1ポイント弱の差で負けた民主は、候補者を指名する7月の党大会の州内開催を決めるなど、失地回復に躍起だ。

 共和陣営には離反への懸念がある。「株高はうれしいが次も投票するかは分からない。発言が愚かすぎて大嫌い」。無党派層の自営業女性(54)のように、トランプ氏の傍若無人な言動への批判は尽きない。

 不倫問題もあり女性の反発は根深い。最近の議会選や知事選では、トランプ氏を支持した郊外の高学歴の女性や主婦層らが民主支持に回り、共和候補が敗れたとの報告が相次いでいる。

 「民主は確実に票を伸ばす。大統領を嫌う人がいるのも事実。女性対策は重要だ」。ディトリッチさんは既に女性対象の会合を企画するなど、対応に忙しい。前回、郡がトランプ氏当選の原動力になったと自負するだけに緊張感がにじむ。

 大統領選が大接戦になるとの予想は田舎にも広がる。雪深い州北部フォレスト郡の共和党支部長テリー・バールさん(63)もそう。それでも離反が広がるとの見方は強く否定する。

 政治家を泥に見立て「たまった泥をかき出す」と訴え、常にけんか腰のトランプ氏は「閉塞(へいそく)した地方を強く立て直す時代の申し子」に映る。しかも好景気だ。「何で変える必要があるのか。支持は逆に増える」と言い切る。しかし-。

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 「批判された相手をあだ名で中傷するようなことは、大統領がすることではない」。かつてバールさんと同じ党支部の幹部で、トランプ氏に投票した家畜農家のジェニファー・ネリさん(64)は切々と訴える。

 大統領就任後の17年、ネット上で「もっと大統領らしく振る舞うべきだ」と発信すると、党の仲間から「大統領の悪口は一切駄目だ」と非難された。トランプ氏を崇拝するような風潮に嫌気が差し、離党した。

 「それに地方を良くするという約束はどうなったのか」。農機具メーカー勤務の親戚も養豚業の知人も、関税政策などのあおりで収入が減った。日本の「子ども食堂」のような支援活動もしているが「貧しい子は貧しいままだ」と憤る。

 トランプ氏が過去の納税情報の公開を拒否するのも「トランプブランドの名声を傷つけないようにするため」と思えてならない。

 今回は初めて民主候補に投票するつもりだ。その決心を、民主系の政治資金団体が作るテレビCMで近く宣言することにした。「20年は彼に投票しない」と。

 団体から、CMに出演した別の男性が脅迫電話などを受けたと告げられた。それでもネリさんは即答した。「覚悟はできている」

 トランプ氏支持を公言していても怒りを胸に秘め、投票しない人は少なくない-。そう確信している。 (ウィスコンシン州で田中伸幸)

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