ワンチーム九州 逆境はね返すスクラムを

西日本新聞 総合面

 2020年の九州はどうあるべきか。一年の計は元旦にありの格言に照らして考えると、こんなキーワードが思い浮かびます。

 「ONE TEAM」(ワンチーム)。昨年、ラグビーワールドカップ(W杯)で日本代表が実践しました。計7カ国出身の選手たちが心を一つにした快進撃は見事でした。その姿は多様性に富む七つの県が一丸となった九州の地域づくりの伝統とも重なります。

 そうです。「九州は一つ」。この理念が重みを増しています。少子高齢化と人口減で社会の閉塞(へいそく)感が増し、若い世代の将来不安が広がる今日こそ、逆境に立ち向かう英知と行動力が求められます。

息づくチャレンジ精神

 「ツール・ド・九州」。九州地域戦略会議(九州・沖縄・山口各県と経済団体で構成)は昨秋、こんな大イベントの検討に着手する方針を発表しました。九州各地を巡る国際的な自転車レース大会の開催です。日本でのラグビーW杯の成功を踏まえ、スポーツを通じた地域振興策に踏み出そうという取り組みです。

 サイクルスポーツは欧州で人気が高く、九州の知名度アップや欧州からの誘客に弾みをつける狙いもあります。実現には周到な準備が必要ですが、こうしたチャレンジ精神も九州の強みと言えます。

 「日本の創生をこの地から先導する」。九州の政財界は5年前からこんな合言葉も掲げています。決して大げさではありません。

 あえて、おさらいしましょう。九州は豊かな自然と文化を擁しています。食料自給率合計特殊出生率(女性が生涯に産む子どもの数)の高さは全国でもトップレベルです。人口移動の半数が域内にとどまる特性も有します。元気都市・福岡市が人材の域外流出に一定の歯止めをかけています。発展著しいアジアとの近接性も、この地域ならではの活力源です。

 九州地域戦略会議は昨秋、こうした優位性をいま一度見据え、新産業の創出、観光の振興、移住の促進などに取り組む「地方創生・新九州宣言」を採択しました。換言すれば、発展の伸びしろはまだまだ広い。だからこそ結束を強めよう-というメッセージでした。ただし、楽観はできません。

「人づくり」進めてこそ

 「30年後に向けた九州地域発展戦略」。民間シンクタンク・九州経済調査協会は昨年末、こんなタイトルの提言集を発表しました。九州には潜在力はあるものの、現状では1人当たりの域内総生産が全国平均の8割にとどまっています。今後、過疎・高齢化や労働力不足は深刻化し、アジア諸国の経済成長の鈍化によって九州の優位性が次第に低下していくことも懸念されます。

 提言集はそうした分析の上で、人工知能(AI)の活用、外国人材の登用、交通インフラの拡充などを軸にした五つの戦略と35のプロジェクトを示しています。詳細は割愛しますが、多くの市民、とりわけ次代を担う若い人々に目を通してほしい内容です。

 「地域づくりは人づくり」とも言われます。主人公は行政や経済団体ではなく市民一人一人です。若いリーダーを育てていくためには、学校教育の場で地域の魅力や課題を繰り返し伝え、子どもたちに参画意識を植え付けていく。そんな取り組みも必要です。

中村さんの遺志継いで

 無論、地域の価値は経済だけでは論じられません。九州が守り抜くべき使命もあります。ナガサキやオキナワの教訓に絶えず立ち返り、この地が一貫して発信してきた反戦や核廃絶の訴えです。

 戦禍の記憶を決して風化させない。その確固たる営みは、スポーツを通じた平和の祭典、東京五輪・パラリンピックが開催される今年こそ輝きを放つはずです。

 昨年、アフガニスタンで凶弾に倒れた非政府組織(NGO)「ペシャワール会」の中村哲さんは日本が進めるべき非軍事分野での国際貢献を長年、実践してきた人でした。その尊い遺志を引き継ぎ、生かしていく取り組みも忘れてはならないでしょう。

 国際情勢の不透明感を含め、日本が直面する困難は多岐にわたります。その中で、地域に軸足を据えながら国内外の動きを捉え、読者とともに郷土の未来を考えていく。それが本紙の役割です。私たちもまた、九州創生へのスクラムの一員として、地道に記事を紡いでいきたいと思います。

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