現役法医解剖医が23の「異状死体」を通じて見た、女性たちの苦悩

西日本新聞

 とある雑誌でヨーロッパのミイラを見たことがある。後頭部が刈り上げられ、頭部と胴体に暴行を加えられた形跡があり、湿地に沈められていた男性の遺体。罪を犯したのか、それとも儀式のために命をささげたのか。筆者はその記事を読んだ時、「人は死に様から、生前のありようがある程度想像できるのだな」と不思議な気持ちに駆られたことを覚えている。

 そんな遺体の声に耳を傾けるのが法医解剖医だ。解剖医の元に運ばれてくるのは、「死因がわからない」など、何らかの異常が認められる「異状死」の遺体。本書の著者は、3000体にも及ぶ異状死体と向き合い解剖した経験から、現代の女性が抱える問題や家族というコミュニティの変容について明らかにしている。なぜ「女性」なのかというと、高齢化や未婚率の増加、ライフスタイルの多様化などによって最も影響を受けやすいのが女性だからだ。

 本書では著者の関わった23の解剖記録が取り上げられている。アパートでひとり凍死した67歳の女性。父親と同居していながら自宅で腐乱死体となった引きこもりの38歳女性。妻とささいなことで夫婦げんかし、橋から身投げした55歳の男性。中でも個人的に衝撃的だったのが、60キロのコンクリート製の蓋を動かし、庭の井戸に飛び込んで自殺した90歳の女性のケースだ。阪神・淡路大震災で家族との思い出が詰まった家が傾き、「生きていてもしょうがない」と自ら人生に幕を引いた。か弱いおばあちゃんが重い井戸の蓋が動かせたのは、いわゆる「火事場の馬鹿力」かもしれない、と著者は語っている。自殺の場合、借金などに追われ自死を選ぶことの多い男性より、女性の方が「死のう」という明確な意志が見えるという。その意志の強さが、自分の命を絶つために発揮されるというのがなんともやるせない。

 著者は「おわりに」でこう記している。「死は誰しもに訪れる。しかし“悲しい死に方”を知っておけば、対策を講じ、避けられる不幸もある。本書がその一助になれば幸いだ」。この一文に、「メメント・モリ」という言葉を思い出した。記憶の中のミイラが筆者に囁(ささや)く。死を忘るなかれ。後悔のないようよりよく生きよ。それは生きているうちにしかできないのだから、と。

出版社:双葉社
書名:女性の死に方
著者名:西尾元
定価(税込):1,540円
税別価格:1,400円
リンク先:https://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-31518-9.html?c=30598&o=&

西日本新聞 読書案内編集部

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