人は変わることができる――変わりたい人に贈るロマンティックストーリー

西日本新聞

 主人公の勾坂展子(こうさかのぶこ)は繊維の専門商社に勤める29歳。親と姪へのクリスマスプレゼントを見繕いに出かけた日曜日に、偶然、根上茂(ねがみしげる)と再会する。6年前に姿を消した知人リコの元カレだ。この日から展子の日常は思いがけない形で変化していく。根上くんとその妻で展子の行きつけの喫茶店のウエイトレスのそら豆さん、パン屋で働くミヤコちゃん、デパートのカリスマ社員のえぐっちゃん。かつてリコに関わった人たちに出会っていき、行方知れずのリコの手がかりを求めて動き出す。

「できれば、がっかりせずに生きていきたい」というのが展子の基本方針だ。堅物で彼氏もいない。人生のハプニングのようなものには近づこうともしない。だが、物語が進むにつれ、展子の安定志向の人生観は、実際のところくすぶっていたことがわかってくる。「正直に生きたい。自分の頭の中だけで広げた思いや考えなのに、他人の目から隠そうとするようにして、自分自身からも隠すのをやめたい」と静かに決意するのだ。

 北国の景色、クリスマスで色めく街の様子、展子の思考のめぐらせ方。独特の比喩はさすが朝倉節といったところだろう。活字で読むシーンが映像となって脳に浮かぶ不思議な感覚にとらわれる。今読んでいるシーンは過去の出来事なのか、それとも現在の様子なのか、その境界すらあいまいになる場面もあるが、それがまた妙で味わい深い。一方で、他人事とは思えない世界観があり、気づけばぐいと引きこまれている。

 本書は12月の初めから年をまたぐまでの約3週間がカウントダウン形式で書かれている物語なのだが、さて展子はリコに再会できるのだろうか。展子自身に何か起きるのだろうか。ぜひ先を楽しみにしながら読み進めていただきたい。また、著書の既出作『タイム屋文庫』(潮出版)とリンクするお話でもある。未読でも十分楽しめるが、併せて読むことをおすすめする。

 

出版社:潮出版社
書名:深夜零時に鐘が鳴る
著者名:朝倉かすみ
定価(税込):935円
税別価格:850円
リンク先:http://www.usio.co.jp/books/ushio_bunko/20240

西日本新聞 読書案内編集部

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