中国目線の記事、ASEANに浸透 メディア提携に批判も

西日本新聞 一面 川合 秀紀

 「海外の政治家が香港の暴力を支援」「ウイグル、過去3年でテロ発生なし」-。タイ大手紙カオソドの紙面に昨年8月以降、政府への抗議活動が続く香港情勢やウイグル族など少数民族の大量拘束が懸念される中国の人権問題を巡り、中国政府の主張に沿う記事が目立つようになった。署名はいずれも「Xinhua(シンファー)」。中国国営新華社だ。

 タイでは昨年、10以上のメディアが新華社と記事交換で合意した。7月に先陣を切ったのがカオソドだ。さらにタイ政府も11月、新華社と協力覚書を結んだ。

 中国メディアと記事提供の提携を結ぶ海外メディアが世界で相次いでいる。香港情勢や人権問題、巨大経済圏構想「一帯一路」など欧米では批判的に報じられることが多い中国のイメージを「国産情報」で挽回する狙いだ。その波は中国に近い東南アジアで際立つ。

 中国政府と東南アジア諸国連合(ASEAN)は昨年を「メディア交流年」と位置づけ、メディア間の提携を推し進めたほか、東南アジアの記者を中国へ招待するなど「交流」した。

 12月23日にバンコクであった交流年の閉幕式には双方から官民約300人が出席し、交流の一層の強化を宣言。式典のシンポジウムではタイ政府幹部が「西側メディアには中国に関する偽情報が多い」と発言した。

 だが、中国発の記事をそのまま掲載するカオソドなど地元メディアに、欧米のメディア関係者や読者の批判が殺到。ツイッターのこんな投稿も拡散した。「反民主主義のプロパガンダを掲載して、自らの価値を台無しにしないで」

 時に政府に批判的な記事を載せ、英語版も人気だったカオソド。高まる批判にすぐさま社説で反論した。

■「洗脳」か「多様化」か 欧米と情報戦、中国攻勢

 昨年8月に中国国営新華社の記事を掲載し始めたタイ大手紙カオソドは直後の同月20日、高まる批判に反論する社説を載せた。

 「新華社と資金のやりとりはない」「どの記事を使うかはカオソドが決める。新華社の介入はない」。そして「西側メディアにはない中国側の視点が得られ、情報の多様化が図れる」と主張した。

 草稿を書いたのは新華社との提携を主導した32歳の英語版編集チーフ、ティーラナイ記者。英語が堪能で在タイの欧米メディア関係者にも知られた存在だ。それだけに彼も「中国に買収された」と批判された。

 社説掲載後もカオソドへの批判は消えていない。英語版での新華社記事の掲載が220本を超えた12月末、ティーラナイ記者に尋ねた。結果的に中国のプロパガンダに加担することになるのではないか、と。

 「もちろんそうだ」。認めた上で語った。「でも西側メディアも香港報道などを通じて『反中国プロパガンダ』を広めている。その意味ではどちらも『偏っている』のではないか」

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 ミャンマーのニュースサイト「ミャンマー・ナウ」は10月、特ダネを放った。

 それによると、ミャンマーの大手紙が8月、米政権が中国との貿易交渉を有利に進めるため香港を混乱させようと内政干渉している、との内容の「アドバトリアル(記事広告)」を、中国関係者から100万チャット(約7万円)の広告料を受け取って掲載した。

 さらに広告と明記しなかったり、架空と思われる筆者名を記載したりして、同様の記事広告を掲載したメディアがあったことも明らかにした。一方で、編集方針を理由に掲載を拒否した日刊紙もあったという。

 取材したティンテトペイン記者は記事掲載後、複数の中国人から「西側の(情報発信の)アプローチについても書くべきだ」と言われたという。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)などでは、米国の政府系メディアがニュースサイトやラジオを開設して現地の強権的な政権を批判する内容の情報を発信。ミャンマー・ナウも海外援助を担う米政府機関の資金支援を受けている。

 それでもティンテトペイン記者は「メディアは政府や組織の宣伝媒体であってはならず、常に記事の公平さと正しさを重視しなければならない」と語る。

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 中国政府は世界規模で巨費を投じ、その思想や主張を広めようと躍起だ。記事提携のほか、国営メディアによる海外メディアの買収など攻勢は欧米やアフリカなどでも表面化している。

 特にASEANは発展途上国が大半で、中国が貿易や投資で最大の相手国になっている国が多い。ASEAN加盟国の政府関係者は「中国メディアとの関係強化はリスクもあるが、経済関係を考えれば避けられない」と漏らす。

 12月23日、バンコクであった「ASEAN・中国メディア交流年」閉幕式に出席した中国側関係者は笑顔を交え記者に語った。

 「私たちの活動は洗脳でも情報操作でもない。どの国もやっているイメージアップだ。中国メディアは良いことを少し大げさに伝えることもあるが、ASEANはわが国と歴史的にも地理的にも近く、イメージはもっと良くなるだろう」

 新華社と並行して米AP通信の記事も掲載するカオソド。ティーラナイ記者は語る。「プロパガンダであろうがなかろうが、是非を判断するのは読者だ」。12月末にもらった彼の名刺には、以前はなかった漢字の氏名も併記されていた。 (バンコク川合秀紀)

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