2020外交展望 「戦争しない国」守るには

西日本新聞 オピニオン面

 沖縄には「聖火宿泊碑」と呼ばれる碑が残る。

 1964年9月、東京五輪の聖火は本島北部の地も巡った。リレーする炎が一夜とどまるために聖火台が造られ、そばで星条旗、五輪旗とともに日の丸がはためいた。当時、沖縄は米軍統治下で、日本国旗の掲揚は特別に許され、沿道では日の丸の小旗が波のように揺れた。

 「本土に復帰すれば米軍基地は減り、平和になる」と人々は期待した。

 皮肉にも今、その聖火碑の目と鼻の先に広がる名護市辺野古の青い海は米軍普天間飛行場の移設先となり、埋め立てが進む。安全保障上の要石として過重な役割を沖縄に背負わせ続けているのが日米同盟の現実だ。

■曲がり角の日米同盟

 現行の日米安全保障条約の署名から19日で60年になる。条約を中核とする米国との同盟関係が戦後日本の経済発展や東アジアの安定に寄与してきた。

 その同盟は曲がり角に来ている。米国が「世界の警察官」の役割から降りようとしているからだ。私たちは自分の国の安全、米国との付き合い方を真剣に考えなければならない。

 安倍晋三首相は「強固な日米同盟」を掲げる。安全保障関連法で集団的自衛権の行使が可能となり、自衛隊の海外での武力行使に扉を開いた。

 米国の強い要請に応じたような政策決定も度重なる。多額の兵器を購入し、昨年末には中東への自衛隊派遣を閣議決定した。米国とイランの対立が緊迫する中、このまま派遣すれば、米軍と情報を共有する自衛隊が紛争に巻き込まれかねない。

 今年は在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)に関する協議が本格化する。日米安保条約を「不公平な条約」と主張するトランプ米大統領は11月の大統領選に向け成果を示すため大幅増額を強く求めてくるだろう。

 アジア太平洋地域の安全保障戦略上、必要だから米国は日本に拠点を置いているはずだ。日本側も施設提供など相応の義務を負うが、不適切な見解や一方的な要求には従うべきではない。日本の立場を真正面から主張できる関係こそ「同盟の深化」と言えるのではないか。

 戦後日本は外交や安全保障でおおむね米国と歩調を合わせてきた。だが、これ以上の米国傾斜は踏みとどまるべきだ。

■健全な隣国関係こそ

 一昨年、内閣府の世論調査で、日本が戦争に巻き込まれる危険があると回答した人は過去最多の85・5%に上った。

 北朝鮮は新型ミサイルの発射を繰り返し、中国やロシアは軍拡を続け、韓国も「自主国防」を掲げて軍事費を伸ばす。安倍首相は新年の所感で「安全保障政策の不断の見直しを進める」と述べたが、日本が軍備増強や自衛隊の役割を拡大させる一方であれば、東アジアの軍拡競争を加速させかねない。

 軍拡よりも健全な隣国関係の構築こそ優先すべきではないか。今春、中国の習近平国家主席を国賓で迎える。対米関係が悪化した中国は日本との関係改善に意欲的だ。香港情勢や人権問題も率直に話し合える関係をつくる好機としたい。韓国とは年末にようやく安倍首相と文在寅(ムンジェイン)大統領が会談した。この流れを確かなものにし、緊張緩和へと向かわねばならない。

 国際社会で日本はどうあるべきかを行動で示してきた人を、私たちは昨年、相次いで失った。人道支援で日本は役割を果たすよう訴えた元国連難民高等弁務官の緒方貞子さん。軍事的存在感の強化が日本への信頼を損なうと警告した医師の中村哲さん。2人が残したメッセージを胸に刻みたい。

 戦後75年である。この間、日本は「戦争しない国」であり続けた。その幸せをかみしめ、安全で平和な社会をいかに守るのかを考える年としたい。

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