民衆置き去りの国際貢献に憤り ペシャワール会・中村哲現地代表に聞く 日本が考えるべきは「何をしたらいけないか」だ

西日本新聞 社会面 東 憲昭

 24年間にわたりパキスタンを拠点にアフガニスタン難民の医療、生活支援に取り組む非政府組織(NGO)「ペシャワール会」(事務局・福岡市)が、来年3月にもパキスタンのペシャワルから撤退し、活動拠点をアフガニスタンのジャララバードに移す。両国関係の悪化が理由だ。講演のため一時九州に戻った現地代表の中村哲氏(61)に、活動への思いや現地の日本観、給油活動継続の是非などについて聞いた。(社会部・東憲昭)

 「現地の人たちと人間的につながり、根を下ろしていた。愛着も未練もある。住み慣れた家を離れるような、妙な感じだ。だが、女性3人を含むスタッフの安全が何より大事で、『逃げ出す』というのが正しい」

 撤退の直接の原因は、難民の強制帰還を進めるアフガニスタンとの間で緊張が高まり、難民を支援する会へのパキスタン政府の態度が硬化したこと。だが、もっと深刻な事情を語る。

 「ペシャワル周辺では暴動、テロは日常化、激化して、毎日数百人単位で死んでいる。アフガニスタン側でも復活してきたタリバン勢力はいつでも混乱を起こせる力を備えており、私たちは非常な緊張の中で活動しなければならなくなった」

 米国はパキスタンを「対テロ戦争の最前線基地」と位置付ける。会の活動拠点の北西部は、タリバンが潜伏するとして掃討作戦が続く。

 「テロとの戦いと称して村ごと爆撃されるが、タリバンと呼ばれる人々の多くは政治とは無関係の農民で、現地には恨みだけが残る。現在の治安悪化は米国など外国部隊が引き起こしたものでもあり、干渉が逆にアルカイダとの結び付きを強めさせる悪循環もある」

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 現地の習慣、価値観を尊重し、井戸や水路建設に一緒に汗を流してきたペシャワール会。これまでは「住民から攻撃を受けたことはない」が、その状況にも変化が兆す。

 「今までと逆に、日本人ゆえに攻撃の対象になりだした。対テロ戦争への日本の積極的な協力姿勢が、現地では裏切りに映るからだ。標的になるから、現地の車にあった日の丸のマークも9月中旬に急いで消した」

 海上自衛隊のインド洋での給油活動について、政府は新しいテロ対策特別措置法案で継続を目指すが、これにも明確に反対する。

 「もうやめてほしい。特措法延長の問題はアフガンでも報じられ、『日本はそんなことをしていたのか』と寝た子を起こした状態だ。爆撃で家族を亡くした人も大勢おり、その燃料が日本の油だった、という話になれば私たちには死活問題だ」

 一方で、民主党の小沢一郎代表は国際治安支援部隊(ISAF)への参加を提唱。政府・与党からは憲法に抵触する、との批判も起きている。

 「軽率だと思う。現地ではISAFと米軍は一体ととらえられており、そこに自衛隊を出すなんて実情を知る者としてギクッとする。確実に自衛隊員は死ぬだろう」

 「よく『日本だけが何もしないでいいのか』と耳にするが、今考えるべきは『まず、何をしたらいけないか』だ。民衆の半分が餓死しそうな状況を置き去りのままで国際協力を論じても、うつろに響く。過去最悪の大干ばつに直面する人々の命に目が向けられない現実には憤りを覚え、むなしさでいっぱいだ」
 

 中村 哲氏(なかむら・てつ)1946年、福岡市生まれ。九州大学医学部卒。国内の診療所勤務を経て、84年にパキスタンに赴任。同国やアフガニスタンで医療、水利支援に取り組む福岡市の医療NGO「ペシャワール会」の現地代表を務める。2003年、アジアのノーベル賞とも言われる「マグサイサイ賞」を受賞した。

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