テロ特措法に代わる新法は必要か ペシャワール会現地代表・中村哲氏「戦争プロセス 撤退を」

西日本新聞 オピニオン面

 2001年に発生した米同時多発テロ。これを受け、多国籍軍はアフガニスタンで空爆など対テロ作戦を実施、日本はテロ対策特別措置法に基づき海上自衛隊がインド洋での給油活動などを行っている。この法律も11月1日に期限切れ。政府・与党は延長か新法による活動継続を目指しているが、野党は反対している。日本はこの問題にどう向き合うべきか。非政府組織「ペシャワール会」(福岡市)の中村哲・現地代表に聞いた。

ーテロ特措法の延長・新法の動きが出ているが、どう見るか。

「反対する。テロ特措法が支援する報復爆撃の結果、アフガニスタンで何が起きているのか、考えるべきだ。しかし、そもそもこういう賛成・反対という議論は現場の悲惨さを見ない観念的、非現実的なもので、その議論には加わりたくない。こうした土俵の設定が日本人をだましてきたのだ。現場から離れるほど、理念や都合のいい情報が重なり合って虚像ができていく。まっとうな感性を持ち、現状を知った上で議論すべきだ」

ーアフガニスタンでは何が起きているのか。

「戦争という人災と干ばつという天災で、国土が荒れている。状況は年々悪化、100%に近かった食料自給率が半分に落ちている。アフガン人たちは生きていくのに精いっぱいで戦争どころじゃない。一方で攻撃により毎日数十人、数百人が亡くなっている。国民の九割以上が農民。土地を失った農民たちは難民になるか、米軍や軍閥の傭兵(ようへい)となり殺し合うか。反米感情は高まり、それをまた攻撃するという悪循環になっている」

 「現在パキスタンに病院1カ所、アフガニスタンに診療所1カ所を設けて活動しているが、いくら診療してもむなしい。水が確保できれば栄養失調など病気の9割以上はなくなる。これまで井戸を1500本以上掘り、用水路は13㌔㍍が完成、5千㌶が潤っている。4年間で延べ38万人を雇用し、その地域は治安も安定している。費用は9億円。米国はテロリスト捜しに300億㌦かけたというが、カルザイ大統領が『それだけのお金があったらアフガニスタンはもっとましな国になっただろうに』と語ったと、国内では堂々と報道されていた」

ーテロ特措法・新法を否定することは、「国際社会の一員」としての責任を果たさないことにならないか。

 「この議論での"国際社会”という言葉は米国、ブッシュ大統領を指すのではないか。米国も政権が変わればどうなるか分からない。日本は復興プロセスと戦争プロセスにかかわっているが、殺しながら助けるというのはあり得ない。復興プロセスは現地で非常に歓迎されており、これに専念すべきだ。日本が復興プロセスでDDR(旧国軍兵士の武装解除など)に主導的な役割を果たせたのは丸腰だったから。平和的であることは一つの力だ」

ーアフガニスタンでは旧政権タリバンが、国際テロ組織アルカイダを支援していると言われている。

 「タリバンはアラビア語で神学生という意味。日本の尊王攘夷(じょうい)に近い国粋主義運動で、栄養失調でひょろひょろっとした、いなかっぺのひげ面の人たちだ。しかも政治運動と関係あるタリバンは少数派。(アルカイダ指導者の)ビンラディンを捕まえるのに、あんな派手な、何万人も殺すような報復攻撃は、健全な感性ではあり得ない。だれが本当にひどいのか冷静に考えられず、とりあえずアフガニスタンを攻撃してすかっとしたかったのではないか」

ーこの事態に日本はどう向き合うべきか。

 「アフガニスタンでは日本は広島と長崎に原爆が投下され、その後戦争をしていない平和な国というイメージが定着している。非核三原則もよく知られている。やろうと思えばやれるがやらない国なんだ、と。しかし、どうも違うぞ、日本もそうだったのか、という感情が急速に広がっている。日本は冷静に、まっとうに、何をしてはいけないかということを考えるべきだ」
(聞き手は文化部・酒匂純子)

 なかむら・てつ 1946年、福岡市出身。九州大医学部卒。84年からパキスタン、アフガニスタンで医療支援や井戸掘りなどに取り組む。2003年、アジアのノーベル賞とされるマグサイサイ賞を受賞。

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