歌舞伎はロックだ! 木村 貴之

西日本新聞 オピニオン面 木村 貴之

 けんかに強く、情が厚いだて男。悪漢から若い女性2人を救い、その2人に慕われる。後に理不尽な報復を受けるが、物語は胸のすく勧善懲悪。最後は1人で決闘に臨み、多勢相手にけりをつける―。

 博多座(福岡市)で昨年見た歌舞伎の「野晒悟助(のざらしごすけ)」。歌舞伎は初心者ながら、主人公の若者の痛快さに引き込まれた。演じたのは尾上菊五郎さん、77歳。その若々しい演技が、ある人物と重なった。キース・リチャーズさんだ。

 1962年結成の英ロックバンド「ザ・ローリング・ストーンズ」のギタリストだ。流行に左右されず、自分たちのロックを貫いてきた伝説のバンドを、ボーカルのミック・ジャガーさんと共に支えてきた。菊五郎さんと一つ違いの76歳である。

 キースさんと重なったのは菊五郎さんの姿に「ロック魂」を感じたからにほかならない。人間国宝ながら俗っぽい世話物の主役を熱演。極上のエンターテインメントに仕上げようと加齢にもあらがう。あれこれ考えると歌舞伎そのものがロックを感じさせる。

 江戸期発祥の伝統芸能の歌舞伎は歌(音楽)、舞(舞踊)、伎(演技・演出)の3要素で成立し、役者の衣装や化粧、舞台美術まで含めた「伝統的な総合芸術」とされる。そう聞けば何となく近寄り難い印象だが、元は当時の現代劇で、世相や流行を映す大衆娯楽。役者は常に庶民と近い。

 そもそも、その名は「傾く」の古語「傾(かぶ)く」に由来する。戦国時代末期、世にあらがうように、派手な服装で型破りな言動をとる人たちが都市部に増え、「傾奇者(かぶきもの)」と呼ばれた。そうした風俗を取り入れ「出雲の阿国(おくに)」という巫女(みこ)が始めた「傾奇踊り」が歌舞伎の原型とか。時代の転換期に世情が不安定な中、一気に広がったという。

 一方、ロックは黒人音楽を起源とし、やはり「あらがい」の歴史が源流にある。映画「柳生一族の陰謀」(1978年)で大原麗子さん演じる阿国は既成の価値観を脱した昭和のヒッピーを思わせ、どこかキースさんにも重なる。

 さて「野晒―」終盤の決闘シーン。開場20周年の劇場に屋号「音羽屋(おとわや)」の掛け声が響く中、菊五郎さんは圧巻の大立ち回りを演じた。時代と世代を超えて正義や人情を伝えきる姿はロックそのものだ。

 平成から令和となり、昭和に続く2度目の東京五輪がある今年は現代日本にとって転換期と言える。歌舞伎に限らず、大衆娯楽にどんな思いを託して楽しむか。キースさんの演奏が光るストーンズナンバーを聴きながら考えてみよう。(クロスメディア報道部)

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