被災の伝承 備えに生かす 国土地理院、災害石碑類をデジタル地図に

西日本新聞 くらし面 長谷川 彰

 集中豪雨や台風直撃など自然災害に明け暮れた昨年の日本列島。冷静に過去を振り返れば、その土地ごとに、地震や津波、土砂崩れや河川氾濫など自然の猛威にさらされてきた記憶が刻まれている。それらを風化させず、教訓として今に生かし、後生に伝えていく取り組みが求められている。

 国土地理院は昨年から、津波や地震、豪雨など過去の自然災害の記録を刻んだ各地の石碑や供養塔の所在地が一目で分かるよう、インターネット上の地理院地図に「自然災害伝承碑」の地図記号を示し、写真や説明文と併せて公開する取り組みを進めている。

 近年、豪雨などによる災害が相次ぐ中、過去に同様の災害に遭ったことを伝える石碑などが建立されている地域でも、地元の住民にあまり知られていないケースがあり、教訓の普及と将来の被害軽減につなげてもらうのが目的だ。

 全国の自治体から地元の石碑や供養塔に関する情報を寄せてもらい、地理院がウェブの地図上にアップしている。昨年12月5日時点で44都道府県の127市区町村にある392基が掲載されている。当面、月に1度のペースで内容を更新していく予定という。

 地理院は「地元の防災地図を作るといった学校の授業や街歩きイベントなどに利用してもらい、過去からの貴重なメッセージとして生かしてほしい」と呼びかけている。地域にある伝承碑の追加掲載を希望する人は、自分の住む市町村に、地理院宛てに掲載申請してもらうよう働き掛けてほしいという。

 地図を見る場合は「国土地理院 自然災害伝承碑」でネット検索を。

木柱の記録を石碑に 佐賀の神社

 佐賀県伊万里市南波多町の住吉天神社境内には、「洪水水深記録碑」と刻まれた背の高い石碑が建立されている。大雨の際に当地で繰り返されてきた浸水被害時の水位を、今に伝える警告の碑だ。刻まれた水位は八つ、古くは300年ほど昔にさかのぼる。

 地域の地理や歴史に詳しい元中学社会科教師、小嶋一郎さん(84)によると、一帯は周囲を山に囲まれていて、蛇行する徳須恵川をはじめ複数の川が合流するため、大雨が降るとしばしば洪水が発生。「水留(つづみ)」の地名が残る。

 その川べりにあるのが住吉天神社。洪水時に何度も水没したようで、拝殿の柱にはその都度、水位が記されてきたという。最古の線は「寛保元年」(1741年)で、江戸時代に3回、昭和に3回、平成に入って2回。最も高い位置は3メートルほどだ。

 「この神社は、昔から地元の人々が祭りなどでよく集まった場所。その度に水害への備えの気持ちを新たにしていたのでしょう」と小嶋さん。社殿もかなり古くなっており、貴重な記録を確実に残すため、小嶋さんら「南波多の昔を語る会」が1996年、境内に記録碑を建てたという。

 柱に記された水位を正確に写し取って刻みつけた。建立後の2006年の大雨で、水位はまたも3メートル近くに達し、上から2番目に線が追加された。この時、集落は床上浸水し、市外の人が1人、水に流されて命を落とした。地域の住民は無事だったという。

 小嶋さんは今も地域の子どもたちに、この記録碑や江戸時代の井堰など治水施設の役目を学んでもらう行事に携わり続けている。「碑を建てただけで終わらせず、その教訓を正しく伝えていくことが大切です」 (特別編集委員・長谷川彰)

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