トランプ氏、戦略なき危機回避 大統領選への影響危惧

西日本新聞 総合面 田中 伸幸

イラン核、中東和平…解なく

 攻撃、報復の応酬で緊迫化した米イラン情勢は、トランプ米大統領が追加攻撃に否定的な見解を示したことで、全面的な軍事衝突という最悪の事態は当面免れそうだ。だが、イランの核開発や中東の安定化など、対立の根幹にある問題の打開に向けた戦略をトランプ氏が見いだせていない状況に変わりはなく、欧州などを交えた対話の呼び掛けも本気度に疑問符が付く。11月の大統領選再選への支障とならないよう深入りを避けた感は否めない。

 「私が大統領である限りイランの核兵器保有が許されることは決してない」。イランによるイラク駐留米軍基地へのミサイル攻撃から一夜明けた8日(日本時間9日)、トランプ氏はテレビ演説の冒頭で、こう発言。イランに核開発を断念させるための新たな合意の必要性を強調した。

 イランへの報復として、さらなる武力行使の是非への判断が注目されたトランプ氏。だが、イランの攻撃が抑制的で人的被害が出なかったことから「米軍は過去最強だが、軍事力は使いたくない」と矛を収めた。

 追加経済制裁で「最大限の圧力」を強化する方針を示したものの、対テロ戦では協調を呼び掛け「望むなら和平に応じる用意はある」と秋波も送ってみせた。

 とはいえ、イラン核合意を一方的に破棄し、危機を招いたのはトランプ氏だ。それにもかかわらず、敵視するオバマ前大統領による核合意を「愚か」と酷評するばかりで、自身の対応を正当化。新たな合意に向けた具体的な言及はない。

 「米国第一主義」で国際協調を軽視しているのに、事態打開を英国やロシア、中国など核合意の関係国に頼ろうとする都合のいい姿勢もあり、識者から「緊張が緩和したとしても米イラン間の交渉は無理」と厳しい意見が上がった。

 米国内では、米イラン関係の危機的状況が回避されるとの期待感が広がったが、予断は許さない。イランが支援するシーア派組織などが、今後も親米イスラエルへの攻撃などを続ける可能性があるからだ。

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 深刻さを増す中東情勢を巡って、大統領選を控えるトランプ氏は中東に展開する米軍の規模縮小や撤退を掲げる。背景には米史上最長の戦争として続くアフガニスタン戦争に対する国民の強い厭戦(えんせん)ムードがある。

 だが、今回のイラン危機では逆に増派を強いられるなど、公約との矛盾が生じている。前回大統領選でトランプ氏を支持した白人層からは「投票したことを本当に後悔している」といった批判が上がり始めた。

 危機が長期化すれば、再選へのリスクが増しかねない。それだけに、イランの抑制的な報復攻撃は「1979年のイランの米大使館人質事件以来、最悪」(中東専門家)と言われる難局への対処を迫られたトランプ氏にとって、危機から脱する助け舟となった。

 一方、イランの司令官殺害に関する米国の世論は、支持が不支持を上回る。「テロリスト殺害で米国はより安全になった」との主張が受け入れられたようだ。

 イラン核問題や中東和平は2期目の課題として先送りし、司令官殺害という成果で支持固めを図る-。トランプ氏の判断に、そんなしたたかな狙いが透ける。 (ワシントン田中伸幸)

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