ゴーン被告会見 逃げ得許さず真相解明を

西日本新聞 オピニオン面

 逃亡先のレバノンでの記者会見は2時間以上に及んだ。完全無罪のアピールだった。しかし日本の刑事司法制度を真っ向から否定し、密出国を正当化する行為は是認できない。速やかに日本に身柄を戻し、「裁き」を受けてもらわねばなるまい。

 日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告のことだ。8日の会見では、起訴された一連の事件について「日産と検察が仕組み、日本政府も絡んだ迫害行為だ」と訴えた。長期の身柄拘束や家族との接見禁止で「人権と尊厳が奪われた」「日本では公正な裁判が受けられない」と、昨年末の逃亡の理由も語った。

 この主張が直ちにまかり通るはずはない。ゴーン被告が計4度逮捕され、延べ130日間、拘束されたのは事実だが、あくまで裁判所の審査に基づく司法手続きに沿ったものだ。厳しい条件付きとはいえ保釈も許可され、被告が法廷で反証する準備期間も与えられていた。その中で起きた海外逃亡劇だ。

 これを容認すれば、日本の法治、ひいては主権が揺らぎかねない。森雅子法相や東京地検がゴーン被告の姿勢に対し「到底受け入れられない」と強く反論し、無罪を主張するにしても日本の法廷に身を委ねるべきだと訴えるのは当然だろう。

 他方、日本が突き付けられた課題も重い。政府には厳正かつ冷静な対処が求められる。まず被告の身柄確保が何よりも重要だ。容疑者の引き渡し条約を結んでいないレバノン政府に、事態の重大性を粘り強く伝え、送還に応じるよう説得に全力を挙げるべきだ。

 日本の立場、正当性を国際社会に発信し、理解を求める必要もある。このまま「逃げ得」を許せば、事件の真相は闇に覆われてしまう。ゴーン被告は、日本以外の国でなら裁判を受ける用意がある、と言うが、そこでの真相解明は期待できない。

 被告が会見で口をつぐんだ逃走の手口の解明も不可欠だ。国内外の報道では元米軍特殊部隊員が関与した可能性など、さまざまな情報が飛び交っている。日本は入国時に比べ、出国時の審査が甘いとの指摘もある。主に富裕層が乗るプライベートジェットを使った手口は、盲点だったのではないか。

 今回に限らず、国内では保釈中の被告人の逃走が相次いでいる。その防止に向けた対策の検討は急務だと言える。ただし、近年の保釈率の上昇そのものを問題視し、裁判所に審査の厳格化を迫るのは拙速だろう。

 刑事裁判の原則は「推定無罪」だ。裁判所が長期の身柄拘束を認めてきた「人質司法」の問題も真摯(しんし)に見据え、保釈の在り方は慎重に議論するべきだ。

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