台湾総統選「偽ニュース」過熱 中国が拡散?規制には懸念も

西日本新聞 国際面 川原田 健雄

 【台北・川原田健雄】11日投開票の台湾総統選では政策論争だけでなく、フェイク(偽)ニュースを巡る議論も過熱している。与党民主進歩党(民進党)の蔡英文総統や最大野党国民党の韓国瑜・高雄市長ら各候補に対する中傷や真偽不明の情報が拡散。専門家は「有権者が信じ込み、選挙結果を左右しかねない」と指摘する。蔡政権は対策に乗り出す構えだが、言論・報道を過度に制約しないか懸念もくすぶる。

 民進党が「フェイクニュース」として問題視するのは「蔡氏の博士号は偽物だ」という疑惑だ。蔡氏が1984年に博士号を取得した英ロンドン大経済政治学院(LSE)の検索システムで論文を探しても、見つからなかったという理由で、台湾大名誉教授らが昨年8月に指摘した。蔡氏側は論文のコピーを公開して反論。LSEも蔡氏の博士号取得を証明したが、インターネット上では「本物ではない」「後から手を回した」などの情報が拡散した。

 韓氏を巡っても、友人の女性との不倫や隠し子疑惑が雑誌メディアに報じられ、陣営は「事実無根」と全面否定した。

 フェイクニュースを研究する王泰俐・台湾大教授(メディア論)によると、蔡氏の博士号疑惑が浮上後、約2カ月間で動画サイト「ユーチューブ」にこの疑惑を集中的に取り上げる10以上のチャンネルが開設された。半分は中国大陸からの関与が疑われるという。

 2016年の米大統領選でフェイクニュースが問題になって以降、フェイスブックなどの会員制交流サイト(SNS)は事業者による偽情報規制が厳格化され、比較的規制の緩いユーチューブへの投稿が増加した。王氏は「一般市民が発信した情報の方が受け入れられやすい面もある」と指摘する。

 王氏は18年秋の台湾の統一地方選後に世論調査を実施。当時問題となったフェイクニュースの真偽を知っていたか有権者に尋ねたところ、回答した約千人の5~7割が知らないまま投票日を迎えたと答えた。台湾ではテレビ局がネット上の情報を十分検証せず報道することも多い。「高齢者はニュースがいったん出回るとフェイクだと信じない人も多い。選挙結果に影響しかねない」と危ぶむ。

 蔡政権や民進党は、中国がフェイクニュースを拡散して対中強硬路線の政権与党を批判し、中台統一に有利な世論を醸成していると主張する。防止策として、「海外敵対勢力」から指示や資金援助を受けて選挙活動やフェイクニュースの拡散などをすれば5年以下の懲役を科す「反浸透法」を昨年末に成立させた。

 これに対し、中国政府は「両岸(中台)の敵意をあおっている」と反発。国民党も「敵対勢力」の定義があいまいなため、中国で活動する台湾企業や留学生が中国人と接触しただけで処罰対象になりかねないと批判する。

 「反浸透法は中国からの資金提供を断つのが目的で、偽情報の直接的な抑制にはつながらない」と王氏は指摘する。政権側が批判的な報道をフェイクニュースとして恣意(しい)的に規制する恐れも否定できない。王氏は「小学生から偽の報道を見抜くメディア教育が必要だ」と訴える。

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