蔡氏再選「香港」追い風 「台湾守る」若者が支持

西日本新聞 総合面 川原田 健雄

 【台北・川原田健雄】台湾総統選で対中強硬路線の与党、民主進歩党(民進党)の蔡英文総統(63)が過去最多得票で再選を果たした。混乱が続く香港情勢を受け、台湾社会に中国への警戒感が高まったことが追い風となった。ただ、中台統一を目指す中国の習近平指導部が蔡政権に圧力を強めるのは必至。蔡氏は米中対立の行方もにらみながら難しいかじ取りを迫られる。

 「主権と民主主義が脅威にさらされる中、人々が声を上げた結果だ」。11日夜、台北市で記者会見した蔡氏は詰めかけた支持者を前に勝利宣言した。

 再選の道のりは平たんではなかった。2018年秋の統一地方選は年金制度改革などへの批判から民進党が大敗。蔡氏の支持率は低迷し苦境に立たされた。

 流れが変わったのは昨年1月。習国家主席が年頭演説で「一国二制度」による台湾統一に意欲を示したのに対し、蔡氏は即座に激しく反発した。6月には香港で反政府デモが本格化。デモ隊に強硬姿勢を強める中国への反発が台湾の市民にも拡大した。蔡氏は対中強硬路線を前面に打ち出すことで、反中感情が強い若者を中心に支持を広げた。

 米中貿易摩擦も追い風になった。生産拠点を中国から台湾へ移す企業が増加。蔡政権は移転を促す政策を掲げ、対中融和で経済発展を訴える国民党に付け入る隙を与えなかった。

 昨夏以降、蔡氏の支持率は総統選候補のトップを維持。「数カ月で情勢がガラッと変わった。蔡氏は本当に運が良い」。台北在住の政治学者は指摘する。

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 蔡氏の再選により、中台関係はさらに冷え込むとの見方が強い。影響が大きいのは経済だ。

 台湾は国民党政権時代の10年、中国と自由貿易協定に当たる経済協力枠組み協定(ECFA)を締結したが、蔡氏再選を受けて中国側が一方的に破棄する可能性が取り沙汰される。破棄されれば輸出総額の約4割を中国・香港向けが占める台湾には大きな痛手だ。中国当局が昨夏から続ける台湾への個人旅行禁止などの措置も撤回は見通せない。

 外交面では、台湾と外交関係を持つ国を中国が経済援助で切り崩す工作を継続。蔡政権下ですでに7カ国が台湾と断交しており、残る15カ国にも「断交ドミノ」が広がる恐れがある。

 中国が圧力を強める背景には米国との対立がある。西太平洋の要である台湾は米中攻防の舞台だ。トランプ政権は昨年、台湾へのF16戦闘機などの売却を決め、台湾寄りの姿勢を示す。

 中国も海洋進出の玄関口である台湾は、譲ることのできない「核心的利益」だ。習氏は中台統一を歴史的功績としたい考えといわれる。中台関係に詳しい趙春山・淡江大名誉教授は21年が中国共産党結党100年、22年が習指導部2期目の最終年に当たることに着目。「重要な節目を前に統一への道筋を付けようと、習氏が台湾への働きかけを急いでいる」と指摘する。

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 今回の総統選では、若者を中心に「反中」意識の広がりがあらわになった。台北市内の投票所などでは「台湾を香港のようにしてはいけない」(60代男性)、「中国人にはなりたくない」(20歳の女子大学生)といった声が相次いだ。「香港のデモが台湾ナショナリズムに火を付けた」と台湾政府のシンクタンク、中央研究院の呉叡人副研究員は指摘する。

 それでも台湾にとって中国は地理的にも、経済・文化的にも切り離せない存在だ。趙氏は「良い隣人ではないが、向き合わないといけない相手だ。与狼共舞(オオカミと踊る)という言葉のように、怖い相手とうまく付き合う方法を考えないといけない」と述べた。

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