君たちはなぜ怒らない 吉田 昭一郎

西日本新聞 オピニオン面 吉田 昭一郎

 スウェーデンの17歳の環境活動家グレタ・トゥンベリさんが日本でも注目されるのは、気候変動を巡る危機感への共感と同時に、むき出しの怒りに心を揺さぶられている面があると思う。同調圧力と忖度(そんたく)が覆う世情だ。怒りをのみ込む“大人の処世”を重ねる先で、いざ怒って当たり前なのに怒ることができない病に陥っているなら、グレタさんの形相はむしろ輝いて映るだろう。

 そんなことを思う昨年暮れ、福岡市であった「日本の戯曲研修セミナー」(日本演出者協会など主催)で、熊本県荒尾市出身の演劇人で同協会理事長、流山児祥(りゅうざんじしょう)さん(72)から、演劇界の現状を聞く機会があった。1960~70年代のアングラ劇をけん引した唐十郎(からじゅうろう)さんの戯曲を取り上げたセミナーだから、おのずと話は唐さんと今の演劇人との比較になる。

 唐さんは、幼年期に終戦を迎えた「戦中派」。反体制と反商業主義を掲げ、神社や街頭、公園に紅(あか)テントを張って、演劇に自由を追求した。流山児さんいわく、その戯曲は「言葉に骨がある」「罵倒劇に人間の根源的な対話、生々しい人間のふれあいがある」「毒のある言葉でタブーを問う」。これに対し、今はどうか、という話になった。

 初期作品の共通テーマ「私とは何か」を、唐さんは骨身のところから自分で考えた。「今の人はスマホで何でも情報は取れると思うかもしれないが、情報が肉体化できてない。唐さんは情報を肉体化し、芸術を肉体化した」

 唐さんの劇団「状況劇場」には「世の中の状況を演じる」との志が宿る。戦時下の暗部も戯曲に織り込み、世の現実を問いかけた。

 流山児さんはセミナーで、グレタさんが始めたデモの世界的な広がりに触れ、若い演劇人を鼓舞した。「(日本は少子化で)年に90万人ほどしか生まれない。(高齢化が加速する中、社会保障を)どうやって支えるの? (気候変動で)地球が、日本がぶっ壊れそうなのに、日本は20年先を考えることをやめ、何もかもが先回しにされている。演劇はそんな『世界の現実』を広く伝えることができる」

 流山児さんの父親は三池炭鉱で働き、三池争議を闘った。自身は大学時代、全共闘運動で反戦を訴え、政治・社会変革に向けて「異議申し立て」をした。セミナーでの言葉は、君たちはなぜ黙っているんだ、もっと怒っていいと言っているように聞こえた。 (クロスメディア報道部)

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 本紙ウェブに連載「なぜ、今、唐十郎か」を掲載中。

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