パワハラ、癒えぬ心身の傷 規制法6月施行、実効性に疑問も

西日本新聞 くらし面 河野 賢治

 企業にパワハラ防止対策を取るよう初めて義務付けた「女性活躍・ハラスメント規制法」が6月、施行される。パワハラの相談は全国で増え、自ら命を絶つ人が出ていることも法規制の背景にある。職場の上下関係から生まれる心身への攻撃や、仲間外しなどが、当事者にどんな苦痛を与えるのか。被害者に聞いた。

 福岡県の男性(43)は、社会福祉法人が運営する介護サービス事業所に勤めていた頃、上司から嫌がらせや降格処分を受けた。うつ病になり、自殺を図った。

 介護保険に関する外部の協議会から、理事長就任を依頼されたのを機にパワハラが強まった。まだ相手に返事をしていないのに、「身勝手なことをするな」と罵倒された。過去に仕事の取り組み方で注意されたことがあり、嫌がらせを受けるようになっていた。

 理事長就任は認められず、手当の打ち切り、必要性の乏しい業務日誌の提出、賞与の減額などの処遇を受けた。パワハラで精神的苦痛を受けたとして、法人側を相手に慰謝料の支払いなどを求める訴訟を起こすと、降格処分になった。

 心労でうつ病を発症。夜中になると車で遠出し、電柱に衝突させようと加速したり、車ごと海に落ちようとしたりした。髪は抜け落ち、かつらを着用。医師から強く入院を勧められても断り、仕事を続けたが、限界を感じて退職した。

 訴訟は判決で主張の多くが認められ、上司の嫌がらせも指摘された。男性は「手当や降格は生活に直結するから精神的に参っていった。元の職場では、仲の良かった同僚が今も働いている。自浄作用がないと同じことが起こる」と話す。

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 パワハラは被害者の心身にさまざまな悪影響を及ぼすことが分かっている。車の整備工場に勤める北九州市の男性(34)は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症した。

 複数の上司から2年以上、嫌がらせを受けた。部品交換や注文の処理などで常に責められ、怒鳴られ、「あいつは仕事ができない。関わるな」と悪質なうわさも流された。

 ある日、車の下側を修理していると、上司の車が速度を上げて迫ってきた。下敷きになりそうだった。後ろから体ごとぶつかられ、突き飛ばされて首を捻挫したこともある。仕事でミスをした後輩は、上司から「あいつと同じ刑にするぞ」と言われていた。

 職場での仕打ちを思い出すと体の震えが止まらない。PTSDと診断され、休職に追い込まれた。

 男性は、仕事をしながら自動車整備士の高度な資格を取るのが目標だった。職場に何を訴えても改善されず、体調もすぐれない。今は将来を考えられない。

 「あんなことをされたのに、一度も謝ってもらっていない」。弁護士などに相談し、対応を考えている。

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 パワハラなどの被害は、労働局や自治体の窓口で相談できる。弁護士などの専門家や自治体職員が、労働者と使用者双方から事情を聴き、話し合いを促して解決に導く「あっせん制度」もある。だが、事業者側が拒めば手続きはできない。

 一方、労働者の団体交渉を拒まないよう使用者に義務付けた労働組合法に基づき、組合活動で解決を目指す例もある。職場に組合がないような中小企業でも、個人で加入できる労働組合に所属し、交渉の場を設ける方法だ。

 連合福岡ユニオン(福岡市)に入った同市の男性(29)は、団体交渉で勤務先にパワハラを訴え、改善を求めた。上司から暴言を浴び続け、宿直明けに急に残業を命じられることもあった。頭痛や下痢などの症状が現れ、うつ病の一種と診断された。

 同僚も同じ扱いを受けている。「数字の書き方が悪い」と、幼児教育用のプリントを渡された人もいた。

 話し合いで上司は態度を改めたが、時に粗暴になる。「以前のように戻ったら、また体調が悪くなるかもしれない。出勤できないと給料が減るし、体調不良で長く休んだから有休も残り少ない。家族がいるので不安です」

 厚生労働省によると、全国の労働局に寄せられたパワハラを含む「いじめ・嫌がらせ」の相談は2018年度、過去最高の約8万2800件。女性活躍・ハラスメント規制法は、パワハラ防止対策こそ義務付けたが、行為の禁止や罰則の明記は見送られた。労働団体からは実効性を疑問視する声が出ている。 (編集委員・河野賢治)

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