芥川賞、記者が選んだ作品は? 候補作読み比べ座談会

西日本新聞

 第162回芥川、直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が15日、東京・築地の料亭「新喜楽」で開かれる。芥川賞は古川真人さん(31)=福岡市出身=の「背高泡立草(せいたかあわだちそう)」など5作、直木賞は湊かなえさん(46)の「落日」など5作が候補入り。計10人中7人が初候補というフレッシュな顔ぶれが中心となった両賞選考会を、西日本新聞の記者が展望した。(記者:内門博、小川祥平、北里晋、坂本沙智、佐々木直樹、諏訪部真、野中彰久、平原奈央子、藤原賢吾)

 ―まずは芥川賞。4回目の候補となる古川作品から。

 北里: おなじみの長崎の島を舞台にしたサーガだが、物語が膨らみ展開にもメリハリがつき、読みやすくなった。同時に登場人物や時間軸が複雑に絡み合って読み進むのに難渋する独特の息苦しさ、暑苦しさもなくなり、普通の純文学になった気もする。
 平原: 空き家にうっそうと生い茂る草を刈り取っていくうち、一家や島の歴史が顔を出す。いくら刈っても生えてくる草は、回復力という肯定的な意味としても、逆に執拗(しつよう)にまとわりつく疎ましいものとしても捉えられる。一族の女性陣の果てしないおしゃべりも繁茂のイメージに重なる。
 佐々木: 「四時過ぎの船」で2度目の候補作となった際、島田雅彦選考委員が講評で「血縁関係の中にとどまらず、もっと空間的、時間的に大きな視野に立って、壮大な物語を紡いでもいいのではないか」と指摘した。本作はこれを意識したのでは? 物語の奥行きは広がった。
 藤原: いくつもの挿話が時間、空間を超えていくが、本編との関係が分かりづらく、物語に厚みを与えているとは思えなかった。

 ―高尾長良さん(27)は3度目の候補。

 平原: 音と言葉について思索を深める現代文学としては現実離れしているほど格調がある姉妹の話。高尾さんはデビュー作では拒食症、その後日本書紀をテーマに書き、今度は音楽。ジャンルが幅広く改めて才能を感じた。
 坂本: 姉妹と、再会する父親との距離感が、うまく描かれていた。
 藤原: 「インテリ果汁100%」とでも呼びたい知的な作品。「あえて」の古くさい表現や翻訳小説のような文体に、方向性は違うが平野啓一郎さんの「日蝕」を思い出した。
 野中: ある女性の手記だという断り書きが冒頭にある。そういう体裁にした理由が理解できなかった。

 ―初めて発表した小説で候補入りとなった哲学者千葉雅也さん(41)は?

 佐々木: 平野啓一郎さんが提唱する「分人」的な小説。同性愛、研究者、異性を含む友人、家族と四つの世界を違う顔で行き来し、それぞれのコミュニティーを排除することなく生活していく描写がリアル。
 藤原: 終盤で「締め切り」にデッドラインとルビが振られ、この言葉が性差や哲学的な思弁などラインを行き来する作品をラストまで牽引する。が、結局は論文が書けない大学院生の話? と作品が小さくまとまっているように感じた。
 北里: それはそうだが、それだけの枠に自己と他者、フランス思想と東洋哲学、同性愛と異性愛など対立概念を重ね、境界の曖昧さをあぶり出していくさまは知的な爽快感がある。
 平原: 少々、理知が先立っている印象は否めず、大学の講義を受けている気分になった。

 ―乗代雄介さん(33)も初候補。

 諏訪部: 日記の中で過去の日記を引用する重層的構造は面白かった。一見、唐突に登場する実在人物の高橋虫麻呂、相沢忠洋が読むにつれ、主人公が敬慕する叔母と重なって見えて好感が持てた。
 小川: 現在と過去を行き来しつ:つ、重層的に描く手法は小劇場演劇の「マームとジプシー」の舞台を思い浮かべた。情景描写が特に印象に残った。
 内門: 僕は韓国映画の鬼才ホン・サンス監督の作品を思い出した。演劇や映画など他ジャンルの現代芸術との同時代性を感じる。同じ場所をかつて叔母と訪ねた時間と主人公一人で再訪する時間、さらにそれを主人公が日記として記述する時間、またさらにその日記を読み返す時間…と重層的に記述される。小説読者の私も、その世界に同期したと感じた瞬間、恍惚としてしまった。
 藤原: 主人公と叔母の掛け合いが絶妙。「友」の枕詞が「かこつるど」だと叔母に教えてもらったり(後にウソだと判明)、分福茶釜を巡るやり取りだったりと随所で笑わされた。

 ―木村友祐さん(49)は小さな村の村長選をめぐる話。

 平原: 舞台は東北の津波被害を直接には受けなかった内陸の村。被災地の絶望と希望のありようを横軸に、東京暮らしに挫折した主人公の「生きる意味」探しを縦軸にしながら、選挙のドタバタ劇とうまくからませながら書き切った。
 諏訪部: 地方議員のなり手不足、役場の建て替えなど、背景にある課題が今日的。あがいても予測通りの結果にしかならない時代の閉塞(へいそく)感も表現されていた。
 坂本: 過疎が進む村人の足の引っ張り合いが滑稽で面白かった。
 藤原: 少々下品な内容だが、松尾スズキさんのような破壊力とストーリーテリングで飽きさせない。
 野中: 面白いが、これが選ばれるなら、松尾さんはとっくの昔に受賞しているだろう。

 ―ずばり受賞は?

 藤原: 乗代さんと木村さんが横一線か。
 野中、内門: 乗代さん、古川さんの順。
 北里: 圧倒的作品はなし。千葉、高尾、古川3氏のいずれかだろう。
 佐々木: 強いて言えば千葉さん。
 坂本: 木村さん。
 平原: 木村さんが面白かったが、直木賞向きか。
 小川: 久しぶりに受賞作なしもあるかも。
 諏訪部: 優劣は分からないが、古川さん、乗代さんの家族の系譜に分け入る作品が印象に残った。個人間のつながりが希薄化した現代社会で、すがりたい対象として改めて家族が見直されているのかもしれない。

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