聞き書き「一歩も退かんど」(62) 万感の県議返り咲き 志布志事件冤罪被害者 川畑幸夫さん

西日本新聞 オピニオン面 鶴丸 哲雄

 「身に覚えのない事件に巻き込まれ、(初当選した4年前は)やむを得ず辞職した。あの時、私を支持してくれた人たちの期待に応えたい」

 私の妻のいとこで、志布志事件で無罪を勝ち取った中山信一が、2007年3月12日、鹿児島県議選志布志市・曽於郡区への立候補を表明しました。3年前の補選に被告の立場で立候補して敗れた時から、本人の胸には「必ず県議に返り咲く」という強い思いがあったようです。

 前の2回の選挙では選挙事務所の裏方役として奔走した私ですが、今回は参加を見合わせました。実は、複数の県警関係者から「幸夫さん、今回の選挙は手を出すな。派手に動くと(県警の捜査の)標的にさるっど」とくぎを刺されていたのです。志布志事件を巡る一連の裁判で、野平康博弁護士から「県警と闘う切り込み隊長」と評された私ですが、どうやら相当恨まれていたようですね。

 でも、私が手伝わずとも、今回の選挙は無罪判決の追い風が吹いていました。不当な逮捕で辛酸をなめた中山への判官びいきです。運動員によると、選挙カーで回ると家々から人が出てきて、「頑張って」と握手を求めてきたそうです。演説には人垣ができ、涙ぐむ女性もいました。

 投開票日は4月8日。中山は1万2034票を獲得し、次点に3千票以上の差をつけ圧勝します。前回の補選で中山を破った自民現職は最下位の3位に沈みました。中山のあいさつには万感がこもっていました。

 「初当選した4年前(の状態)に、やっと戻してもらえました。有権者の皆さんから無罪を頂きました」

 そう、この選挙には、地元の有権者が志布志事件にどんな審判を下すかという側面もありました。中山が圧勝したのは、不当な捜査で冤罪(えんざい)を生みだした県警はけしからん、という民意の表れです。

 「これからの4年間で8年分の仕事をします」と表明した中山は、その後、県議会での責任追及や講演活動に力を入れていきます。

 それにしても、この男は1年以上の勾留にもめげず、よく否認を貫いたものですね。県警も手を焼きました。捜査を主導した県警本部のI警部が取調室で中山に土下座し、「一度でいいから容疑を認めてくれ」と懇願したこともあったそうです。間違ったことは頑としてはねつけ、耐えに耐えたからこそ味わえる再選の喜びでした。 (聞き手 鶴丸哲雄)

PR

社説・コラム アクセスランキング

PR

注目のテーマ