「ちゃんと育てられているだろうか」震災で転落、踏ん張る母

西日本新聞 社会面 御厨 尚陽

【連載】子どもに明日を 貧困その後(2)

 「おなかすいたよ」。昨年11月下旬の深夜、熊本市のアパート。小学4年の貴史(10)と妹の優花(5)がせがむ。シングルマザーの真実(34)は残り物の炊き込みご飯とシチューを食べさせた後、甘えん坊の優花の歯を磨いてやり、2人を寝かし付けた。ありふれた家庭の光景だが、ここに至るまでの道のりは苦労の連続だった。

 一家は2016年4月の熊本地震で被災。約1カ月間、車中泊や県外の知人宅に身を寄せた後、真実は震災前から勤める訪問販売の仕事に復帰した。ただ当時1歳だった優花が毎月のように発熱し、看病のため思うように働けなかった。月の手取りが6万円になることもあり、生活費を稼ぐため週末の夜はキャバクラでアルバイトをした。

 貴史は小学生になり、同級生の家族から食事会や泊まりがけのキャンプに誘われるなど出費を伴う機会が増えた。とても行かせるだけの余裕はなかったが、「母子家庭だからといって、惨めな思いをさせたくなかった」。訪問販売の仕事を辞め、2年前から風俗店とキャバクラのダブルワークを始めた。

 そんなさなか、問題が起きた。真実が夜の仕事で留守中、きょうだいげんかをし、貴史が優花に包丁を突き付けたのだ。「こんな生活じゃ、子どもに悪影響が出る」。昨年5月に仕事を辞め、無職になった。

 震災後、真実のように生活難に陥った家庭は少なくない。熊本市が16年8月に市内のひとり親家庭約7千世帯にアンケートしたところ、震災前より収入が減ったと回答したのは22・2%。このうち収入が5割以上減った世帯は18・3%を占めた。

   ◇   ◇

 「ママのこと好き?」。真実は子育てに悩むと、2人を抱きしめて尋ねる。

 児童養護施設で育った真実は、両親からかわいがられた記憶がない。子どもへの愛情のかけ方が分からず、2人を怒鳴ってしまうたび「ちゃんと育てられているだろうか」と不安に襲われる。

 昨年9月からはハローワークで見つけた飲食店で日中だけ働く。月給は手取りで十数万円。家賃や食費を支払うと、ほとんど残らない。生活は再び苦しくなったが、今は子どもとの時間を何より優先する。離婚した夫からわずかばかりの養育費をもらえるようになり「ようやく再出発できそう」と笑う。

 被災直後に、生活費に困って切り崩した貴史の貯金も積み立てを再開した。目標額は100万円。結婚する際に渡したいという。

 先日、真実は貴史から手紙をもらった。

 「いつもおいしいごはんをありがとう。わがままをきいてくれてありがとう」。クリアケースに入れて大事にしまっている。

(登場人物はいずれも仮名)

ひとり親家庭の貧困率 独立行政法人「労働政策研究・研修機構」が2018年に、ひとり親家庭707世帯にアンケートしたところ、平均所得の半分を下回る貧困状態の母子家庭は51.4%に上り、16年の前回調査から4.4ポイント悪化。父子家庭も22.9%で、12.3ポイント増だった。

(御厨尚陽)

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