事故死のトラ吉がつないだ縁 「心の穴」埋める交換日記

西日本新聞 ふくおか都市圏版 横田 理美

 地域住民の絆を生んだのは、天国の「アイドル猫」だった-。福岡市博多区のJR竹下駅周辺の住民に愛されていた雄猫が昨秋、交通事故に遭いこの世を去った。この小さな命を悼む心からか、猫が寝床にしていたほこらには写真アルバムや交換日記が置かれ、やがて関わった住民たちの間に交流の輪が広がった。

 「皆さまに愛されてきました猫のトラ吉が9月19日の夕刻、車にはねられて他界いたしました」

 竹下駅から北東約200メートルのほこらに張り紙が現れたのは昨年9月下旬。近くに住む吉田幸彦さん(65)は、いつものようにトラ吉と遊ぼうと中をのぞき込み、張り紙に気付いた。

 「えっ、あんなにかわいかったのに…」。翌朝に再びほこらを訪れると、きつね色とトラ模様がトレードマークの生前の写真が何枚も並べてあった。数日後にはトラ吉を思い浮かばせるようなオレンジ色の交換日記が登場。「いつもなごませてくれてありがとう」「心に穴が開いた感じです」…。さまざまな筆跡がページを埋めていった。

 「トラ吉の集いをしませんか」。日記に参加した吉田さんが呼び掛けた。応じた5人が10月のある日、ほこらの前に集まった。

 「6年半前、段ボール箱に子猫が5匹捨てられていてね。トラは私が預かったのよ」と切り出したのは、当時ほこらの裏手に住んでいた大山和子さん(79)。牛乳を飲ませるなどして育て、地区外へ引っ越した後にも、様子を見に週に一度はほこらへ通った。

 「さい銭箱の上で眠る姿が愛らしかった」と懐かしむのは、毎日ウオーキングで付近を歩く南区大橋の石岡通孝さん(71)。5年ほど前から水をあげるようになったという。「地域のみんなで見守っていた」と目を細める。

 トラ吉の「最期」を知るのは博多区那珂の会社員岡元浩さん(42)、真理子さん(44)夫妻。付近を自転車で走っていた浩さんが、見覚えのある猫が血を流し道ばたに横たわっているのを見つけたという。自宅へ連れて帰り、バスタオルで大切にくるんだ。

 張り紙は、岡元夫妻から連絡を受けて亡きがらを引き取った石岡さんの心遣いだった。「突然いなくなると地域の皆さんが心配するから」

 一緒に手を合わせた5人は「トラ吉がつないでくれた縁」だからと連絡先を交換。今も、交換日記での交流を続ける。「新入り猫がほこらを訪れている」という情報も入った。吉田さんは「みんなが寂しがっているので、トラ吉が呼んでくれたかな?」。

 隣近所が疎遠な時勢に、思いがけず生まれた住民の交流。地域に愛された猫の「恩返し」だったのかもしれない。 (横田理美)

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