「年寄りは邪魔者か」

西日本新聞 オピニオン面 上別府 保慶

 正月休みに鹿児島県霧島市の実家に帰り、タクシーに乗った。よく晴れて噴煙もなく、桜島がくっきり見える日だった。

 車中に「免許返納カードを提示いただくと料金が10%引きになります」という表示がある。高齢ドライバーによる事故が社会問題化する中で考えられたサービスなのだという。

 霧島市は「平成の大合併」で国分市と霧島町など6町が合併して生まれ、人口は県内2番目になった。中心部では、元は田畑だった所に高層のマンションも立つが、広い市域の周辺には路線バスの道筋から遠く外れた集落がある。

 そうした場所ほど高齢化は進み、買い物や通院のために「乗り合いタクシー」のサービスもあるという。3~4人一組で時間を決めて車を呼び、料金の負担を軽減する仕組みだ。ただ、それを利用するには親しい者同士のつながりが要る。過疎の暮らしで免許証を手放すのは難しい。

 運転手さんがルームミラーでこちらを見て言った。

 「そりゃあ高齢者の運転は田舎でん恐ろしかです。夜は特に恐ろしか。センターラインが見えんで真ん中を走りよる車や、逆走もありますよ。でも、ワイドショーなんかで都会ん評論家が年寄りを邪魔者んごつ言うんは、あんた何様か、ですな。嫌いですよ」

 免許返納のハードルは地方ほど高い。いずれ来るといわれる自動運転の車の時代も、高齢者には遠い話だし、実現しても年金暮らしでは手が届きそうもない。

 そんな地方と中央の認識のズレは、教師をする郷里の友からも聞かされた。例の文部科学相の「身の丈」発言騒ぎで、見送りとなった大学入学共通テストの英語民間検定試験。そもそもあれは離島が多い県では無理だよ、という話だった。

 鹿児島県の場合、予定された試験会場は鹿児島市と鹿屋市、そして奄美大島の3カ所だった。中央にいる政治家や官僚は配慮したつもりだろうが、鹿児島の海は広く、どの会場にも遠い生徒がいる。宿泊が必要になるし海が荒れれば船は止まる。これが本番の大学受験ならば出費も覚悟しようが、地図を開けばその不公平は分かったはずだ。

 昨年11月、鹿児島市であった英語教諭の研究集会にこの民間試験の見送りが伝わると、失笑が広がったという。教師の友はこの騒動が、本来は日本人の英語力を高めるための改革だったのが、現場をまるで知らない人々によって進められた結果だと嘆く。

 「生徒には元々、英語が好きだったのに高校に入って受験英語に失望する子もいる。偉い連中は足元を見ているのかと思うよ」

 古里に帰るたび、懐かしい声は重く響く。

 (特別編集委員・上別府保慶)

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