聞き書き「一歩も退かんど」(63) 米紙1面に「シブシ」 志布志事件冤罪被害者 川畑幸夫さん

西日本新聞 オピニオン面 鶴丸 哲雄

 2007年5月11日、ある新聞の1面に、私の顔写真が載りました。残念ながら、西日本新聞ではありませんよ。世界に知られた米国有数の新聞「ニューヨーク・タイムズ」です。後日、紙面が送られてきて、腰を抜かしそうになりました。だって、私の写真が英国のブレア首相の写真に次ぐ大きさなのです。妻の順子には「残念ながら、ちょっと写真写りが悪かったね」と言われましたが…。

 同紙が掲載したのは、志布志事件のルポ。見出しはずばり「日本では警察の圧力で無実の人でも自白」でした。鹿児島県警が引き起こしたまれにみる冤罪(えんざい)事件は、ついに世界的ニュースになったのです。

 私のほか、志布志事件で無罪が確定した山下邦雄さん、たたき割り国家賠償訴訟を闘う浜野栄子さんの写真も掲載されました。

 執筆者は同紙の東京支局長、大西哲光(のりみつ)さん。この頃はメディアの取材が相次いでいたもので、失礼ながら何月何日に取材を受けたのか覚えていないのですが、踏み字の模様を熱心に聞かれました。「警察はここまでやるかと思った」と証言したのを覚えています。

 記事の書き出しを紹介しますね。「シブシ-この西日本の小さな町で起きた選挙買収事件の被疑者たちはしつこい取り調べにさらされ、起訴前に何カ月も拘束された人もいた。警察はある女性に窓から自白内容を叫ぶように命令し、ある男性には愛する家族の名前を無理やり踏ませた」

 そう、前者が交番から叫ばせた「おらばせ事件」。そして後者は私の「踏み字事件」です。

 大西さんは、事件の舞台になった懐(ふところ)集落にも足を運びました。関係者を綿密に取材して「警察は何を言っても聞いてくれなかった」などの証言を丹念に紹介。日本では伝統的に自白が「証拠の王」とされていることを批判し、起訴前に23日間も被疑者を勾留できる制度が国際的非難を浴びていることも指摘しました。

 この後、英国の公共放送局「BBC」も志布志事件を取材しています。これほど海外メディアの注目が集まったのは、志布志事件がいかに異様だったかということ。ニューヨークっ子も、日本じゃまだこんな取り調べが横行しているのか、と驚いたことでしょう。

 そして5月17日、私がH警部補を特別公務員暴行陵虐容疑で告訴した件で動きがありました。この後、踏み字事件は私が予期せぬ展開をたどっていきます。

 (聞き手 鶴丸哲雄)

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