【劇評】嫉妬、偽りなき人間の体温  能と現代劇で「葵上」連続上演

西日本新聞 吉田 昭一郎

 能と現代劇で「葵上(あおいのうえ)」を連続上演する舞台が1月10、11日、福岡市博多区のぽんプラザホールであった。NPO法人「アートマネージメントセンター福岡」の主催。源氏物語の「葵(あおい)」の巻を基にした作品で、正妻を嫉妬し生き霊と化す愛人の情念をそれぞれの特徴を生かしながら表現し、観客を楽しませた。

 ◆動きの一つ一つに情念の充満

 能は、光源氏の正妻、葵上に怨霊となってとりつく源氏の愛人で元皇太子妃、六条御息所(ろくじょうみやすどころ)を、地元で活動する観世流の今村嘉太郎が演じた。
 重体の葵上を救おうと照日の巫女(てるひのみこ)(今村哲朗)が梓弓を鳴らして霊を呼ぶと、御息所が鬼の形相で出現する。すり足の所作は静かだが、時に首を振ってにらみ据え、時に足拍子を鳴らして、恨んでうなる姿の一つ一つに、情念の充満を感じさせる。

 数珠を鳴らして祈祷する修験者、横川の小聖(よかわのこひじり)(御厨誠吾)と、襲いかかる御息所の怨霊との闘いも、抑制された押し引きの動きの中に、一触即発の緊迫感と魂のこもった迫力があった。地謡や笛、鼓の響きは、日本伝統の異空間を小気味よく演出する。

 「(御息所も)嫉妬するのは恥ずかしく思うが、どうしても生き霊として出てしまう感じ。そこに品格がないといけない」。嘉太郎は、伝統様式の枠内で生み出す微妙な表現の綾を語っていた。

 三島由紀夫の作品を基に現代劇

 現代劇は、三島由紀夫著の「近代能楽集」を基に、木村佳南子(地元劇団「非・売れ線系ビーナス」所属)が演出した2人芝居だ。

 愛妻「葵」が入院し病院に駆けつける夫「若林光」を鶴賀皇史朗(地元演劇プロデュースユニット「CAPRI」脚本・演出)、光の元愛人で葵を嫉妬し生き霊となって呪う資産家美女「六条康子」と「病院の看護婦」の2役を、中嶋さと(地元劇団「FOURTEEN PLUS 14+」主宰)がそれぞれ演じた。

 夜、病院の葵のもとに駆けつけた光。応対する看護婦はエロチックで、男女関係のあれこれを語り思わせぶりだ。そこに毎夜、見舞いに来るという康子がやってきた。白い衣装の中嶋は衣替えせず、舞台脇に下がって朗読する間をはさみ、自然に康子役に転じる。

 光は意外な再会に驚き遠ざけるが、康子は延々と光に語りかけ、じわじわ迫り続ける。光が葵と結婚後、一睡もしていないという。

 舞台中央に人が横たわれるほどの大きさの水槽が置かれ、浅く水をたたえる。葵が寝る病院のベッドとの設定だ。水の音が舞台を覆う。ぼこぼこと水の音が広がる。葵の声だという。うめきだろうか。超現実的な舞台空間で、光と康子の対話劇は続く。

 「あなたを殺したいと思うときに、死んだあなたから憐(あわ)れまれたいと思うでしょう」「私の檻(おり)のなかで、私の鎖のなかで、自由を求めているあなたの目を見ることが、あたくしの喜びだったの」。康子は、複雑で尋常でない光への執着を見せる。

 一方で、葵への嫉妬は、毎夜、悪夢を呼ぶ「苦痛の花束」を持参し、葵ののどに手を触れて首くくりの夢を見させる、と言うほどの激しさだ。あるいは、「狐にのど笛を裂かれる鶏」に葵の運命を暗示して語ってしまうほどの怨念を、中嶋は舞台中央の水槽の周りを行き来し、鶴賀と交錯しては離れ、声に強弱や高低をつけながら表現する。

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