「心は今日から変えられる」 航空機内のバリアフリーへ課題共有

西日本新聞 くらし面 三宅 大介

連載:バリアフリーの現在地(3)

 公共交通は、行きたい場所に誰もが自由に移動できる手段の一つ。しかし段差や狭い通路など、障害のある人たちの利用を「前提」とした設備やサービスではない。障害者差別解消法は、こうしたバリアー(障壁)をなくすための合理的配慮を、民間にも努力義務として求めている。

 運営企業はどう向き合おうとしているのか。昨年、航空会社のスターフライヤー(北九州市)の社員向けに、福岡県が北九州空港で主催した研修をのぞいた。

 ●模擬飛行機で体験

 空港ターミナルビルから徒歩約10分、同社の訓練施設1階。実機の客室さながら、片側3列の客席がずらりと並ぶモックアップ(模擬飛行機)がある。

 客室乗務員(CA)ら多くの職員に囲まれ、バギー(大型の車いす)に乗って入ってきたのは山本聖七(せな)ちゃん(2)。常に人工呼吸器を使うなど医療的なケアが必要だ。

 「バギーのままでは乗れず介助者の膝の上になりますが、いかがでしょう」「呼吸器は前席の足元には置くことができます」。CAの説明一つ一つに母の理恵さん(31)がうなずく。

 前方の席では、車いすの男性が、機内用車いすへの乗り換えを体験。シート間の通路が狭いため実機でも、幅の狭い専用のものでトイレなどに移動する。

 男性は「乗り慣れてないのでちょっと怖い。トイレ自体も狭いですかね」と率直に吐露。「でも、声かけをしながら補助してもらえれば、大丈夫だと思います」。見守った女性職員たちは神妙に耳を傾けた。

 この日は、ほかに視覚障害者らも参加。CAや空港内のスタッフ、コールセンターの職員ら約20人と施設内を回り、さまざまなバリアーをチェックした。

 ●課題は同じ目線で

 研修は福岡県が民間企業向けに、本年度から始めた事業の一環。実際に障害者と交流しながら、配慮のあり方について理解を深めてもらう狙いがある。

 公共交通の中でも、航空機は安全上の理由もありハード面の制約が少なくない。主に「人の手」による代替策が現実的となる。

 こうしたソフト面の研修はこれまで「各部署で完結しがちだった」と「CS推進部おもてなしセンター長」の渕けい子さん。「電話予約の担当者、空港内のスタッフ、CAなど職種によって配慮に対する認識がまちまちでは、一貫したサービスとは言えない。同じ目線で課題を共有しながら対応していくべきでは」。サービス従事者全体の問題意識を高める好機ととらえ、研修への参加を決めた。モックアップを研修に開放するのは初めてという。

 約2時間かけて施設を回った後は、全員で意見交換。「点字ブロックなどの場所が分かりづらい」「電源は呼吸器を使う人の命綱と初めて分かった」「積極的に困り事を聞く姿勢が大事」…。職員たちの発言は「驚き」にあふれていた。

 決して、ハード面の壁を乗り越える具体的な道筋が見えたわけではない。渕さんは「心はきょうから変えられる。この体験を、経営層を含めて全社的に蓄積したい」と総括、課題解決への「一歩」と位置づける。

 ●腫れ物と思わない

 県から研修の委託を受け、講師を務めたのは障害者施設の人材育成支援などを行う株式会社「ふくしごと」の樋口龍二さん(45)。「障害のある人を腫れ物と思わず、楽しくコミュニケーションを重ねることで、お互いが満足できるサービスにつなげてほしい」と、企業側の「身構えない意識改革」にも期待する。

 「家族で抱え込むのが当たり前なので、職員の方も一緒に考えてくれる姿勢がうれしく、少し気が楽になった」と笑顔を見せた聖七ちゃんの母、理恵さん。

 ただ、介助者として参加した小児の訪問看護ステーション「にこり」代表の松丸実奈さん(41)が憂えるのは「特に重度者はリスクととらえられ敬遠されがちなので、家族がなかなか声を出しにくい」現状だ。

 「一度接すれば何か工夫しよう、と変わるはず。『手伝う』感覚ではなく、運営に携わるあらゆる企業が、公共サービスに携わる責任として、誰もが利用しやすい交通機関を目指してほしいです」-。ニーズと現実の隔たりを埋める試みは始まったばかりだ。 (編集委員・三宅大介)

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【ワードBOX】事業者向けの対応指針

 障害者差別解消法に基づき、企業側が適切に対応できるよう合理的配慮の事例などを示したもの。公共交通機関は所管する国土交通省が定める。航空運送業では、車いすを貸し出す▽利用者の車いすは無料で預かる▽トイレに行く際の移動を手伝う-など。「安全上の問題がないのに、障害だけを理由に搭乗を拒否すること」は差別的取り扱いに当たる、とされる。

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