「晴れ姿ば見せてもろた」 芥川賞・古川さん祖母、舞台の島で喜び

西日本新聞 長崎・佐世保版 福田 章 西田 昌矢

 第162回芥川賞の発表から一夜明けた16日、古川真人(まこと)さん(31)の受賞作「背高泡立草(せいたかあわだちそう)」の舞台と目される長崎県平戸市の的山(あづち)大島は、芥川賞の話題で持ち切りだった。作中の「内山敬子」のモデルとみられる古川さんの祖母内田玲子さん(88)は、喜びの余韻に浸った。

 平戸港との間を40分で結ぶフェリー大島が発着する的山港の待合所。船待ちの住民は「夕べテレビで見たばって、芥川賞は大島が舞台ってじゃんな」「書いたもんな内田玲子さんのうまご(孫)らしか」と言葉を交わした。島は古川さんの母親の故郷だ。

 桟橋から徒歩3分ほどの海沿いで食料品店を営む内田さん宅に伺うと「ようと眠りもされじゃった」と内田さん。15日午後6時前の受賞決定の瞬間から、ひっきりなしにお祝いの電話がかかり、知人が祝意を伝えに来たという。

 「こがん忙しか目に遭うとなら、真人ん賞金ば半分もらわにゃでけん。そりゃぞうたん(冗談)ですばって」と作中の敬子がそこにいるような口ぶり。「記者会見の真人は、ちいった緊張しとるごたった。見覚えんある背広ば着とった。よか晴れ姿ば見せてもろたですが、今からが大変ばい」

 すると「うんにゃ、緊張はしとらん」と近所の女性。「あの子はいつもどっしり構えとった。高校生ん頃やったきゃ? おじいさんのマントばそぼき出して(引っ張り出して)着て、げた鳴らしてさろきよった。個性のあったもんな」。毎年の盆や正月に島を訪ねる古川さんを思い起こした。

 松野あけ子さん(60)は、幼なじみの古川さんの母親に触れ「明るい性格で子育ても自由だったから、真人さんの才能が開花したっちゃないかな。2人に心からおめでとうと言いたい」と笑顔で話した。

 住民の交流で穏やかな島の日常は、古川さんの芥川賞受賞という朗報で一段と温かさを増したようだ。

 作中の敬子一族が一帯のセイタカアワダチソウを刈る「納屋」を思わせる旧いりこ工場が、的山港の近くにある。立ち寄ると、冬枯れの草が冷たい潮風になびいていた。古来、海上交通の要衝だったこの島の歴史の地層から必然的に生まれたのが「背高泡立草」なのだと思えてきた。 (福田章)

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古川さんの本求め問い合わせ相次ぐ 長崎市内の書店

 長崎県ゆかりの古川真人さんの芥川賞受賞を受け、長崎市内の書店には「古川さんの本はないか」などの問い合わせが相次いだ。これまで同賞の候補に4作品が上がり、うち3作品は出版されているものの、“文学通”でなければ作品名は知らないもよう。出版部数も限られ在庫もわずか。書店の販売担当者は「予想外のうれしい受賞」と、在庫確認や発注に追われた。

 同市の紀伊国屋書店長崎店は「祝 芥川賞受賞」とのポスターを掲げ、新着本の予約受け付けをスタート。受賞作は今月末に出版される予定で、特設コーナーを設置する方針。担当者は「地元ゆかりの作家さん。しっかり応援したい」と張り切っている。

 先輩作家もエールを送る。2001年に芥川賞を受けた青来有一さん(61)=同市=は、会話だけでなく、文章全体に方言を盛り込んだ文体に注目し「新しく、面白い。身体に染み込んだその土地の息吹を感じる」と評価。4度目の候補作での受賞に「私は5度目だった。まだ若く、これが最高到達点ではないと思う」と期待した。 (西田昌矢)

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