聞き書き「一歩も退かんど」(64) 検事の前で録音開始 志布志事件冤罪被害者 川畑幸夫さん

西日本新聞 オピニオン面 鶴丸 哲雄

 踏み字事件を引き起こしたH警部補の刑事裁判を巡り、検察が動き始めました。私はH警部補を鹿児島地検に告訴したのですが、2007年5月17日、福岡高検への捜査の移送が発表されたのです。

 こちらとしては大歓迎。志布志事件に深く関わった鹿児島地検は鹿児島県警と身内も同然で、起訴するかどうかすら疑わしいと案じていました。上級機関の高検なら、しっかり調べ直し厳正に起訴してくれるのでは、と期待したのです。

 早速、6月11日に高検の室井和弘刑事部長による事情聴取を、鹿児島地検鹿屋支部(鹿屋市)で受けることになりました。到着すると、記者たちが「川畑さん、その紙袋の中身は何ですか」と尋ねてきます。「可視化ですよ。か・し・か」。にんまりして取り出したのはテープレコーダー。妻の順子に持たされました。これで聴取の一部始終を録音するのです。検察には取り調べで散々やられましたから、念のためですね。

 初めて会った室井部長はすらっとした紳士。「私は可視化運動をやってるので、録音取っていいですか」と尋ねると、苦笑して「いいですよ」。で、室井部長の目の前で、赤の録音ボタンを押しました。

 その効果でしょうか。室井部長はパソコンに私の証言を打ち込みながら、「そうですか、そうですか」と相づちを打ち、終始、優しい応対。踏み字の模様も実際に私の足首をつかみ、再現を交えて聞いてくれました。私は「10回くらいされました」と証言しました。

 特に強調したのは、H警部補を逮捕してみっちり取り調べた上で起訴してほしいということ。逮捕から23日間の勾留という、自由を長期間奪われる苦痛は体験した者にしか分かりません。これをH警部補に味わわせないと、自分がどんなに非道な罪を犯したかは理解できないでしょう。

 「H警部補の行為は絶対に許せません。再発防止のためにも絶対に逮捕してください」と私は訴えました。室井部長は「私の一存では決められないので、持ち帰ってよく検討します」と答えました。

 聴取は3時間半に及びましたが、私の言葉に親切に耳を傾けてくれたので、長さを感じませんでした。こんな検事ばかりなら冤罪(えんざい)なんて起こらないのに、と思ったほどです。ところが、室井部長の態度は次の打ち合わせで一変します。まるでジキルとハイドのように-。その話はまたいずれ。 (聞き手 鶴丸哲雄)

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