養育費増額しても…「支払い保証ない」残る不安 16年ぶり新算定表

西日本新聞 くらし面 下崎 千加

 離婚後に支払う子どもの養育費を決める際に目安として使われる算定表を、最高裁の司法研修所が先月、16年ぶりに見直し、年収によって月1万~2万円増などおおむね上がることになった。「ひとり親家庭の貧困解消の一助に」と期待される一方、そもそも養育費を払っていない人が8割近くに上り「額が上がっても、払われないのでは意味がない」と効果に懐疑的な当事者もいる。

 算定表は、父母の年収と、子どもの数や年齢(14歳以下か15歳以上か)を当てはめれば、月額の目安が簡単に分かる。2003年にできた旧算定表は、日本弁護士連合会などから「低額すぎて格差を固定化している」といった批判があり、家裁裁判官4人が検証して作り直した。裁判所のホームページで公表している。

 14歳以下だと、多くの場合1万~2万円の増額となる。算定に組み込まれる公立高の学費負担が減り、15歳以上では横ばいのケースもある=図参照。

 16年に見直し案を提示した日弁連両性の平等に関する委員会委員の深堀寿美弁護士=福岡市=は「多くのケースで増える点は良かった」と評価。ただ、月額が約1・5倍の日弁連案と比べ、増え幅は小さかった。

 日弁連案は、養育費算出の基になる「基礎収入」を年収の6~7割としたが、新算定表では住居費を差し引くのを認め、4~5割とした。深堀さんは「住居費は生活費の一部であり、差し引くべきではない。自分の生活水準を少し落としてでも子どもの暮らしを支えるのが、養育費の根拠となる民法の生活保持義務。ひとり親や民法学者など幅広い意見を聴き国の責任で作るべきものを、裁判官4人だけの密室で作ったことは問題だ」と注文を付ける。

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 「私にはあまり関係ない、という感じです」と話すのは福岡市の40代女性。元夫の浮気が原因で6年前、当時小学生の息子と娘を連れて離婚した。司法書士の友人の助言もあり、旧算定表を参考に養育費を月8万円とし、支払いが滞った場合は強制執行する旨を記載した公正証書を作った。

 だが半年後から支払われなくなった。看護師で年間所得は約300万円。児童扶養手当の対象外で生活に余裕はない。地裁に強制執行を申し立て、昨年7月、元夫が勤務する会社の給与を差し押さえた。8月から3カ月間連続で支払われると再びストップ。元夫は9月末で退社していた。

 「結局、算定表が変わったところで、支払われる保証はない。さまざまな法的手段を駆使しても、逃げられたら終わり」。受験生の息子には奨学金で大学に進むよう伝えている。

 福岡県に住む別の40代女性は「見直しがもっと早ければ…」と悔しがる。元夫の借金が原因で、13年に3歳の息子を連れて離婚。18年に養育費を求める調停を起こし、月3万円が支払われるようになった。福祉施設で働くが、暮らし向きは厳しい。新算定表では1万円ほど増額となるが、変更には再び調停を起こす必要があり、そんな時間的、金銭的余裕はない。

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 16年度の全国ひとり親世帯等調査では、養育費を受け取っている母子家庭は24%、父子家庭は3%。今年4月に改正民事執行法が施行され、不払い親の預金口座や月給を差し押さえる強制執行がしやすくなるが、申し立てできるのは公正証書(強制執行の認諾あり)や調停、判決などで養育費を決めたごくわずかな人だけだ。さらに相手が月給のない自営業や日雇いだったり、住民票を移さず転居したりしていると、差し押さえは難しい。

 「養育費は子どもの権利」との考えが定着する欧米では、養育費を取り決めない離婚は裁判所が認めない国が多い。支払いが滞れば、国や州政府が立て替えたり、不払い親の給与から天引きしたりする。協議離婚が日本と同様に多い韓国でも、公的機関がワンストップサービスで養育費の請求を支援する。日本では、全て当事者任せだ。

 改正民事執行法の付帯決議で、こうした海外の制度に倣うか検討に努めることとされたため、昨年11月、法務省の有識者会議が発足した。ただ議題の中心は「共同親権の是非」で、養育費はかすんでいる。

 小川富之福岡大法科大学院教授(家族法)は「増額は大事だが、まず8割が受け取っていない現状や、支払いが滞れば個人で何とかするしかなく大勢が泣き寝入りしている現状を、早急に解決すべきだ」と話している。 (下崎千加)

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