養護老人ホーム入所遅れ重症化も 自治体の判断に格差

西日本新聞 佐賀版 梅本 邦明

財政難が背景?減少傾向

 経済的困窮などを理由に自力では暮らせない高齢者が、「最後のセーフティーネット」となる養護老人ホーム(以下、養護)に入れなくなっている-。佐賀県内の養護で働く40代男性から憤りの声が取材班に届いた。高齢者人口は増えているのに養護の入所率はなぜか減っている。養護は市町が「措置」という権限で入所させるが、調べてみると自治体によって措置の数に大きな差があることが分かった。

 男性が勤務する県内の養護。入所率は60%台で、入所者のいないフロアはベッドががらんと並び閑散としている。

 「ここは衛生的で食事もおいしいし、スタッフも親切でありがたい」。2017年から入所する90代女性はこう話す。

 夫から暴力を受けて自治体に相談し、15年に宅老所に入ったが2年後に退去を強いられ、結局は自治体の措置により養護に入所した。男性は「適切な措置でもっと早く養護に入り、生活環境を整えるべきだった」と指摘した。

 この養護では近年、糖尿病や高血圧などの生活習慣病の入所者が増加。「措置が遅くて重症化したケースもある。高齢者が放置されれば孤独死につながりかねない」と懸念する。

   ◇   ◇

 養護は生活に困窮する高齢者が入所する。県内には12施設あり、入所率(1日時点)は平均87・1%。この10年で10ポイント近く下降した。市町が入所措置した人の数は毎年減少傾向で、理由とされるのが小泉政権の三位一体改革だ。

 措置費はかつて、国が2分の1、県と市町が4分の1ずつ負担していたが、05年度から地方に税源が移譲され、市町の全額負担となった。使途が自由な一般財源のため、財政難を背景にした「措置控え」が指摘されるようになった。

 ある福祉関係者は「国が4分の3を負担する生活保護を受けるようにして、その金で高齢者が有料老人ホームに入るケースがある。養護がない自治体では、措置の意識が低く、潜在的なニーズを拾い切れないこともある」と憤る。

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 入所措置の数(1日時点)は自治体で格差がある。養護4施設がある唐津市は措置258人、待機者21人でいずれも県内で突出。月平均の措置は7人に上るという。市は「施設数と措置数は関係なく、入所者が多い背景は分からない。必要に応じて適切に措置している」と説明した。

 江北町は昨年12月に入所判定委員会を約6年ぶりに開き、2人目を措置した。措置数は県内で最少。「そもそも入所申請が少ない。地域のつながりが強い(ため高齢者の孤立が少ない)からでは」と推測した。

 佐賀市は措置数減少の要因として高齢者の受け皿拡大を挙げる。市には有料老人ホームが95施設あり、10年前の約6倍。「高齢者の選択の幅が広がった。単純な措置控えとは違う」と強調した。

 西南学院大人間科学部の倉田康路教授(社会福祉学)は「経済的に困窮する高齢者が増えてニーズはあるのに、自治体の判断が措置の格差をもたらしているのは否めない」と指摘。「高齢化が進み、福祉の権限が中央から地方に移ったことが背景にある。行政側は高齢者の生活安定や自立につなげる視点を持ち、必要な人にサービスを届ける役割がある」と述べた。(梅本邦明)

【養護老人ホーム】入所は原則65歳以上で、経済的困窮や身寄りがないなどの生活環境が厳しい人などに、居室や食事などのサービスを提供する施設。高齢者にとって「最後のセーフティーネット」と呼ばれ、多くは社会福祉法人や自治体が運営する。入所の申請を受けた自治体は、医師や保健所職員などでつくる入所判定委員会を設置し、入所の必要性を判断。「措置」という権限で入所させる。高齢者が個別に契約する特別養護老人ホームなどの介護保険施設とは異なる。

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