脳損傷 「見えない障害」に 記憶や集中力が低下、感情抑制も難しく

西日本新聞 医療面 山下 真

 病気や事故で脳を損傷した人に記憶力や集中力の低下、感情をコントロールできなくなるなどの後遺症が生じる「高次脳機能障害」。外見では変化が分かりにくいため、周囲の理解を得られず、「会話がかみ合わない」「同じミスを繰り返す」などと職場や外出先で敬遠されることも少なくない。当事者は全国に30万~50万人と推計されるが、認知度は低く、適切な支援が受けられないケースもある。 

 「性格が攻撃的になりました」。昨年12月上旬、大分市。脳外傷友の会「おおいた」(萱嶋陸明会長)の5人が、高次脳機能障害がある家族の症状を語り合った。共通するのは、障害によって性格が大きく変わったことだ。

 同市の女性(71)は約1年前、夫(73)が脳梗塞で救急搬送された。一命を取り留めたものの、失語症となり、ささいなことで怒るようになった。病院に向かう車中でハンドルを握る女性の腕を赤くなるまでたたき、自宅で急に興奮して茶わんを投げることも。女性は「昔は暴力を振るうことなんてなかった。2人で暮らすのが怖い」と嘆く。

 大分県臼杵市の男性(70)の次男は17年前、友人の車の助手席で事故に遭い、脳が広範囲に傷ついた。1年ほどの入院やリハビリを経て、身体は左手足に軽いまひが残る程度まで回復し、現在は銀行に勤務。ただ、作業や片付けを効率的にできず、場面に応じた柔軟な対応ができないという。「周囲には『元気になってよかった』と言われるが、行動や考え方が少し常識外れになった」と男性。

 他の家族からも「新しいことを覚えられなくなった」「お金の使い方に見境がなくなった」など、変化に戸惑う声が相次いだ。

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 こうした症状は外見からは伝わりづらいため、高次脳機能障害は「見えない障害」といわれる。日常に支障を来すことが多く、介護する家族の負担にもつながる。

 東京慈恵会医科大の渡辺修教授(リハビリテーション医学)が高次脳機能障害のある964人の家族を対象にした調査(2018年10月)によると、バスや電車に乗って1人で外出したり、日用品を買ったりできる当事者は約5割。請求書の支払いや銀行口座からの引き出しができる人は4割に満たなかった。

 重度の場合、家族は付きっきりとなる。調査では4割以上の介護者にうつ状態の可能性がみられた。渡辺教授は「介護・介助は家族が背負い込むことになり、負担感は切実」と指摘する。

 社会の支援態勢はあるのか。当事者は医療機関や福祉施設でのリハビリや自立訓練を経て、就労などの社会参加を目指すのが一般的だ。中途障害であるため、発症時の状況や必要な支援はそれぞれ異なり、多岐にわたる社会保障制度の活用が求められる。

 多様で継続的な支援を浸透させるため、厚生労働省は全国の医療機関や介護施設に「支援拠点機関」を設置し、相談に応じる「支援コーディネーター」を配置。九州7県には計12機関、コーディネーター18人が登録されている。ただ、別の業務と兼ねる人も多く、支援態勢は地域でばらつきがある。

 NPO法人「日本高次脳機能障害友の会」(名古屋市)の古謝由美理事長は「コーディネーターだけで解決できない問題も多く、多職種が連携し、地域で支えていく態勢が欠かせない。社会全体で高次脳機能障害への理解をもっと深めてほしい」と訴える。(山下真)

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