障害特性理由に雇い止め 福岡の工場「意思疎通できぬ」主張食い違い

西日本新聞 社会面 山下 真

 福岡県朝倉市のブリヂストン甘木工場に嘱託社員として勤めていた自閉症スペクトラム障害(ASD)の30代女性が2018年11月、同社から「他の従業員とコミュニケーションが取れない」と通知を受け、1年で雇い止めとなっていたことが分かった。ASDの人にはコミュニケーションが苦手な特性がある。障害者雇用促進法に基づく指針では障害を理由にした雇い止めを禁じており、女性側は今月10日、「差別的な対応で不当労働行為に当たる」として県労働委員会に救済を申し立てた。

 女性が加入する労働組合「フリーターユニオン福岡」によると、女性は17年10月、ハローワークが長期雇用を目指す障害者向けに開いた面談会をきっかけに、採用された。契約期間は17年12月~18年11月。女性は更新を希望し、会社も当初は継続勤務の可否を確認していた。

 ところが18年10月、同社は女性に契約更新しないことを通告。「社内ルールを説明しようとすると、自身の考えと合わない場合に相手の社員を怒鳴りつける」などコミュニケーション不全を理由に挙げた。女性は「私が職場で怒鳴ったことは一度もない。障害の特性、必要な配慮について聞かれたこともなく、相談も無視された」と話す。

 女性によると、担当業務は他の社員の補佐やパソコンのデータ入力だった。机に書類を広げることが多いため、普段は使われていない共用ワゴンに書類立てを置いて整理していたが、同僚から「私物を置かないように」と注意されて困惑。上司に相談しても対応してもらえず、周囲から嫌がらせやセクハラを受けるようになったと訴えている。

 障害者雇用促進法は、障害者が能力を発揮できるよう、企業に「合理的配慮」も義務付ける。同社は団体交渉で示した文書で「静かな環境で仕事をしたいという申し出に配慮し、配属や業務を決めた」と説明。適切なコミュニケーションが取れず、説明や指導が進まなくなったとし「労働能力を評価した結果として契約を終了した。障害者であることを理由に解雇したのではない」と主張している。

 女性は「申し出」について否定。ユニオンは「職場のルールを頭ごなしに押し付けるだけで合理的配慮はなかった」とし、言い分は食い違っている。

 取材に対し、同社は「団交中で回答を控えたい」としている。 (山下真)

■発達障害、雇用定着進まず

 精神障害は2018年4月、企業や自治体に一定の雇用を義務付ける障害者雇用の対象となった。発達障害もここに含まれた。一方、身体障害は1960年の障害者雇用促進法制定時から努力目標の対象とされ、76年に義務化。知的障害も98年に義務付け対象になった。民間企業の障害者雇用数は厚生労働省の集計(2018年6月)で約53万4700人。このうち身体障害者は約34万6千人、知的障害者は約12万1千人。精神障害者(発達障害含む)は約6万7千人で、定着が遅れている実情がある。

 障害者雇用を支援する「パーソルチャレンジ」(東京)によると、企業の人事評価制度は「従業員の能力は年齢や経験とともに上がる」という前提で構築される。発達障害のある人は年齢や経験にかかわらず、気分の浮き沈みや業務への適性で効率や成果が変わるため、既存の制度で対応しきれないミスマッチがある。職場の「空気」が読めず、失礼な発言を繰り返して孤立する事例もあるという。

 大浜徹ゼネラルマネジャーは「障害の特性を職場全体で理解し、相談しやすい雰囲気づくりや上司の定期的な面談が必要になる」と指摘する。

 自閉症スペクトラム障害のある人は、自分がこだわるやり方で仕事の段取りを付ける特徴がある。埼玉県立大の朝日雅也教授(障害者福祉)は「職場のルールを伝えることも大切だが、それに固執せず、障害特性を踏まえて柔軟に運用することも大切だ。ルールを少し変えることで、障害者が大きな戦力になることもある」と話す。

 日本発達障害ネットワークの東條裕志事務局長は「発達障害のある人はひとたび採用されても、雇用を継続されにくい問題もある。対応を企業任せにせず、行政の相談機関も連携するなど社会全体で支える態勢が欠かせない」と提言している。

【ワードBOX】自閉症スペクトラム

 コミュニケーションや対人関係が苦手、こだわりが強く、特定の物事に対して強い興味を持つ-などの特徴がある発達障害の一つ。スペクトラムは「集合体」の意味で、自閉症やアスペルガー症候群などを総称する。理解できないことがあれば、パニックになったり、自分なりのやり方にこだわったりして、社会生活が困難になるケースもある。

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