【カジノ付きIR】 藻谷 浩介さん

西日本新聞 オピニオン面

成長戦略の目玉に疑義

 年末年始の日本を“IR汚職”が騒がせている。贈賄企業はカジノ関連の事業を手掛ける会社だったので、“カジノ汚職”と呼んだ方が分かりやすい。

 IRとは本来、コンベンション(会議場)、ホテル、ショッピング(物販施設)、アトラクション(劇場や遊園地など)の四つを備えた集客施設のことで、カジノは必須要件ではない。米国で一番集客力のあるIRはフロリダ州のディズニーワールドだし、日本で最も成功しているIRは東京ディズニーリゾート(TDR)だが、これらにカジノはない。

 中東のドバイも、町全体がIRのようなものだが、賭け事はできない。日本国内で「IRといえばカジノ」という偏ったイメージを広めたのは、ラスベガスのようなカジノ付きのIRを日本にも建設したいと考えた、一部の人たちだったのではないか。

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 安倍晋三政権はカジノ付きIRを「成長戦略の目玉」に掲げる。しかし「カジノ解禁で経済が成長する」というのは、風が吹けば桶屋(おけや)が儲(もう)かるのと同種の話に聞こえる。

 欧米でもオーストラリアでも、カジノは日本のパチンコ店と同じように至る所にあり、珍しいものではない。中国本土にカジノはないが、マカオ、韓国、シンガポールなどが中国人の集客を競っている。「既存の観光地に味付けとしてカジノが加わる」という程度であれば、場所によっては成り立つだろうが、日本経済を成長させるほどの規模の話ではない。

 シンガポールのマリーナベイ・サンズ(MBS)を見て、「これをわが町にも」と夢を描いた人もおられよう。3棟の超高層ホテルの上に空中庭園やプールが乗るその姿は、一度見たら忘れられない。だが「IR=MBS」と考えるのは「遊園地=TDR」と考えるようなものだ。TDRの段違いの集客力を普通の遊園地に期待できないように、MBS並みの集客力は普通のIRには備わらない。

 MBSにはホテル、国際会議場、劇場もあるが、集客の核は巨大なショッピングモールと、隣接する国立公園(ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ)だ。どこにカジノがあるのか、行ったが気づかなかった人も多いのではないか。

 カジノ以外の巨大施設による莫大(ばくだい)な集客と、カジノ内の小さなVIPルームから上がる高収益で何千億円もの投資を回収しているのだが、一輪車に乗りながらお手玉をするようなそんな芸当を、簡単には再現できない。

 MBSは立地条件からして日本のIR候補地とは違う。都心から歩けるほど近いうえ、直下の駅には地下鉄が2路線通る。国際空港からも高速道路で30分、タクシーでも2千円ほどだ。

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 世界の実情を不勉強な人たちの推す「日本型IR」は、悪い方に転べば「甘い計算で巨大施設を建てた末、自治体が多額の負担をする」という事態になりかねない。

 他方で「採算性を考え中途半端な施設を造った結果、あまり客が来ない」というシナリオもあり得る。カジノの成否に依存する以上、造ること自体が博打(ばくち)なのだ。

 本気で国際観光による経済成長を目指すのであれば、韓国の売る喧嘩(けんか)を買ったのは愚かだった。日本政府による韓国への輸出規制強化を受け、訪日韓国人は昨年後半だけで前年同期より180万人程度減少している。これにより失われた国内消費額だけでも1300億円を超える計算だ。IRの想定年間売り上げより大きいであろう額を半年間で失っておいて、それを博打で取り返そうという日本政府に、「成長戦略」を語る資格はあるのだろうか。

 【略歴】1964年、山口県徳山市(現周南市)生まれ。88年東京大法学部卒、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。米コロンビア大経営大学院で経営学修士(MBA)取得。2012年1月から現職。著書に「デフレの正体」「里山資本主義」など。

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