香港「勇武派」、台湾へ 抑圧逃れ移住、留学相次ぐ

西日本新聞 国際面 川原田 健雄

「仲間見捨てた」葛藤も

 政府への抗議活動が続く香港で、警察と衝突してきた「勇武派」と呼ばれる若者が台湾へ移り住んでいる。香港当局が取り締まりを強める中、店舗破壊などこれまでの先鋭的な行動が罪に問われる恐れがあるためだ。渡航先で取材に応じた若者たちは、仲間を残して故郷を離れるさみしさや葛藤をにじませた。

 「本当は香港の大学に入るつもりだったけど…」。昨年9月に台湾南部、高雄市の大学へ進学したクリスさん(19)は複雑な表情を浮かべた。

 香港で高校生活を送っていたクリスさんが勇武派に転じたのは昨夏。中国大陸に近い元朗地区でデモ参加者が白いシャツを着た集団に襲撃された事件がきっかけだった。白シャツ集団は親中派に近いマフィアで、警察がその暴力を黙認したと報じられ、怒りがこみ上げた。「暴力には暴力で対抗するしかない」。8月に入ると毎週末、全身黒ずくめでデモの前線に立ち、警官隊に向かって火炎瓶を投げ付けた。

 勇武派の活動は危険と隣り合わせ。武装警官に押し倒された時は警察車両に乗せられる直前、仲間が助けてくれた。警官に追い詰められ、ビルの屋上から数メートル隣のビルへ飛び移ったこともある。警察との攻防が終わって家に帰り着くのは午前3時ごろ。翌日はほとんど寝ずに学校へ通った。「休みたいと思っても、仲間のことを考えたらそんな選択はできなかった」

 いつ逮捕されてもおかしくない緊張が続く中、卒業後の進路として頭に浮かんだのが台湾の大学だった。「香港を離れてデモの根っこにある政治問題を勉強しよう」。親の勧めもあり、9月に高雄へ渡った。

 大学では、香港出身の留学生仲間と一緒に香港への応援メッセージを貼り出した「レノン・ウオール」を構内に作成。ミニ集会も開き、支援を呼び掛けた。

 ただ、香港の活動に参加できない無力感はぬぐえない。香港理工大に千人以上の若者が立てこもった11月下旬は、大学内に残る友人に何の支援もできず、ふがいなさで涙があふれた。

 日々の様子を会員制交流サイト(SNS)にアップすると、香港在住の親友に「遊んでばかりで、香港での活動を忘れている。友達をやめる」と絶交を告げられた。「台湾で支援を呼び掛けていると伝えても分かってくれない。もう以前のようには仲良くできない」とクリスさんはこぼす。

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 香港の中学3年ティーさん(15)=仮名=は昨年12月、繁華街で抗議活動に参加しようとした矢先に、警官から催涙スプレーを吹きかけられ逮捕された。数日後、釈放されたが、心配した母親は親戚が住む台湾への留学を勧める。

 「釈放まで毎日、母は仕事を休んで警察署に通ってくれた。あのやつれた顔はもう見たくない」。昨年末、勧められるまま高雄市を訪れ親戚と会ったが、一方で、抗議活動を続ける仲間の顔も頭にちらついた。「香港を離れてみんなを見捨てるようなことは、やっぱりできない」。家族と仲間のはざまで気持ちは揺れ動く。

 香港では勇武派と警察の衝突が繰り返され、6千人以上の市民が逮捕された。SNSでは「多数の行方不明者がいる」とのうわさが絶えない。ティーさんの親戚の女性(49)は「子どもが逮捕されるのが怖いんじゃない。ある日突然いなくなるのを恐れている」と母親の思いを代弁する。

 「行方不明の若者は当局に拘束され、中国本土に連れ去られた恐れがある」。中国の禁書を扱い、中国当局に約8カ月拘束された香港の「銅鑼湾書店」元店長の林栄基さん(64)=台北在住=は、自らの経験も踏まえて指摘する。「香港の未来は大事だが、自分の命がもっと大事。香港を離れて外から闘うべきだ」と若者に呼び掛ける。

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 台湾はもともと香港からの移住先として人気が高かった。香港情勢の悪化に伴い、永住権などを求めて香港から移り住む人はさらに増えている。昨年1~10月は約5500人に上り、前年同期比で2割超の増加となった。

 3年前に香港から高雄へ妻と一緒に移り住んだエドワードさん(58)は、台湾へ渡った香港出身の若者の支援に乗り出す。香港の民間団体から資金提供を受けて、若者が身を寄せる場所を探したり、滞在資格取得を手伝ったりする計画だ。「子どもたちは安全な場所にいるべきだが、今の香港では確保が難しい。できる限り台湾に来てほしい」と訴える。

 しかし、台湾でも中国の影はつきまとう。クリスさんが大学内に作ったレノン・ウオールは、何者かに頻繁にメッセージをはがされる。中国本土からの留学生とのいさかいも絶えない。中国当局や台湾の親中派から監視、嫌がらせを受けないようエドワードさんの若者支援も表立っては動きづらいという。

 11日の台湾総統選では中国に強い態度で臨む蔡英文総統が再選されたが、将来、対中融和路線の国民党政権が誕生し、中国との統一に傾く可能性は否定できない。

 「台湾の若者には絶対に選挙で投票すべきだと呼び掛けている。親中派に権力を握らせないためにも」。政府トップや国会議員を普通選挙で選べない香港の出身だからこそ、エドワードさんが一票に込める思いは強い。(台北、高雄で川原田健雄)

▼レノン・ウオール 1980年、凶弾に倒れたビートルズの元メンバー、ジョン・レノンをしのんで、共産主義体制下にあったチェコスロバキア(当時)の若者たちがメッセージを壁に記したのが起源。共産主義に対する抗議や、自由を求めるシンボルとされた。香港では2014年に起きた雨傘運動の際にもデモ隊が占拠した地域に現れ、今回の抗議活動でも各地で見られる。

▼香港から台湾への移民 台湾は、香港の住民が台湾で600万台湾元(約2200万円)以上を投資して起業すれば移住を認めている。混乱が続く香港情勢を受け、昨年1~10月に居留許可を受けた香港出身者は前年同期比2割増の約4300人、永住権を得た香港出身者は3割増の約1200人に上った。ただ、香港を通じて中国人が流入する可能性もあるため、立法委員(国会議員)から審査の厳格化や許可要件の見直しを求める声が出ている。

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